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第12話 これよりみーちゃん裁判を始めます。被告人、判決、終身刑。私の部屋に。

「浜中、ちょっと良いか?」

「ひ、ひゃい!?」


 名前を呼ぶと、スマホをじっと見ていた浜中がびくりと肩を跳ねさせた。


「悪いな。邪魔したか?」

「そ、そ、蒼音君! ど、どうかしたの?」

「ああ。いや、次の時間の打ち合わせをしたくてな。忙しいなら出直すが」

 俺も集中して本を読んでいる時に邪魔をされるのは好きじゃない。零もそれは分かっているからか、精々後ろから抱きついて体をまさぐってくるぐらいだ。


 ……いや、これ分かってねえな。少しずつ体が触れる範囲が増えてたから気づかなかったが。今度注意しなければ。


「う、ううん! 大丈夫だよ! 打ち合わせだよね。ちょっと待ってね」

 そう言って、浜中は机の中から数枚綴りになったプリントを取り出した。




 ここで説明しておこう。

 浜中の容姿は、よくいる文学少女のような姿だ。

 三つ編みをお下げにして、赤縁あかぶちの可愛らしい眼鏡を掛けている。容姿も零達とは違ったベクトルで可愛らしく、影で人気のあるタイプだ。


「く、くそ……あいつ、静ちゃんにまで手出すつもりじゃねえだろうな。いや、無いか。静ちゃんだしな」

「ま、まさか。さすがに無いだろ。あの浜中だぞ?」

 ちなみに、そうして俺達を見て喋ってるやつの文末には(浜中の良さを知ってるのは俺だけだしな)が付く。んなこたない。彼女は誰にでも優しいだけだ。



 それと……でかくない。俺が普通に話せているのもこのお陰だ。


「あ……あったあった。えっと、今日はレク決めとバスの席決めだよね……?」

「ああ。先に言っておく。すまん、迷惑をかける事になるはずだ」

 そう言って頭を下げれば……浜中は苦笑した。


「あはは……仕方ないよ。あれだけ可愛い彼女さん? がたくさん居るんだもんね」

「……何を勘違いしてるのか知らんが。別に彼女では無いぞ」

「……え?」


 そう言うと、浜中はかなり驚いた顔をした。


「確かに家に押しかけてきたりはしてきてるが。恋人関係は無いぞ」

「……へぇ。そうなんだ。そうだったんだ」


 浜中はそう言って……俺を見ながらニコリと微笑んだ。



 ――あ、これ絶対選択肢ミスった。何が、とかどうして、とかは分からんが。それだけは分かった。


 いや、勘違いであれ。自意識過剰であれ。


「ふふ。なら私にもチャンスはあるんだね♪」

「た……タチの悪い冗談はやめてくれ。いやガチで」

 思わず真顔でガチトーンで言ってしまった。浜中は……クスリと笑っていた。


「冗談だよ、冗談」

「いやもう……心臓に悪いぞ」


 その言葉に胸を撫で下ろす。……なぜだ。なぜ俺の鳥肌は立ちっぱなしなんだ。どうして嫌な予感は消えてくれないんだ。



 どうして全裸の零に相対してるかのような緊張感があるんだ。


「……あれ? 寒いの?」


 する……と、その手が伸びて俺の腕を摩ってきた。


「い、いや、大丈夫だ。それより話を続けよう」

 俺はその手から逃げるように一歩引きながら、頭を振った。


 ずっと、鳥肌は治まらなかった。


 ◆◆◆


「これよりみーちゃん裁判を始めます。被告人、判決。終身刑。私の部屋に」

「判決が早すぎるだろ。世界記録目指してんのかよ」

「何事も一番を目指さないとね。目標は高くしないと」

「だとしても横暴にも程があるだろうが、オープニングの途中からエンドロールが流れ始めた時の俺の気持ちを考えろよ」

「ふふ。余った時間は私といっぱいイチャイチャ出来るね」

「うーんポジティブシンキング……というか、星はなんでそんなに機嫌が悪いんだ?」

「……別に」

「おお……女子のめんどくさい言葉ランキング三選に入るやつじゃねえか」


 肘をつき、手に顎を乗せながら言う星は傍から見れば地雷臭が半端ない。


「……めんどくさい女の子は嫌い?」

 三選のうち二つ消化してるぞと思いながらも、俺はため息を吐く。


「俺を舐めんじゃねえ。隣に世界一めんどくさい女を連れて十数年生きてきた男だぞ」

「えへへ」

「褒めてねえ。……というかこいつ以上に面倒なやつなんざ居ないっての。高校違うってだけで引きこもった挙句ガチで既成事実作ろうって襲いかかってくる女だぞ」

「えへへ」

「だから褒めてねえって! 頬を赤く染めるな! ……まあ、何が言いたいかって言うとだな」


 先程から零はにやにやしながら赤くなった頬を押さえている。もう放置で良いだろう。


「文句があるなら言って欲しい。俺は女心なんざ分からんからな。言葉にしてくれないと何も分からん」


 こういう時の対処は簡単だ。素直に言葉にする事だ。


 変に察しようとして拗れるよりは全然良い。


「……」


 星は目を丸くして俺を見て……ため息を吐いた。


「はぁ……やっぱ好き」

「文句さんどこ行った?」


 来るかと身構えていた言葉と正反対の言葉が来て思わずそう言ってしまった。


「……未来君、抱きついていい?」

「急に何言い出してんだよ。ダメに決まって「おりゃ」んむぐっ!?」


 言葉を言うより早く先に乳が目の前に迫ってきていた。乳の圧がやばい。


「みーちゃん裁判その二、死刑。被告人は腹上死の刑に処す」

「んんー!(イントロからエンディング行ってんぞ! レトロゲーのバグかよ!)」

「被告人は後で私の部屋に……いや、私が被告人の部屋に行く。体は洗わないで待っててね。そっちの方がみーちゃんの匂いが強くて興奮するから」

「んぐわあー!(こんな所で性癖暴露してんじゃねえ!)」

「やん……未来君ってばそんなに鼻息荒くして」

「んぎゃわぁ!(呼吸が! 出来ねえんだわ!)」


 そして数分ほどして、やっと俺は解放された。


「……だ、大丈夫ですか? 未来さん。ぼ、ボクのおっぱいで休みます?」

「四天王連戦かよ。GAME OVER一直線だわ」

「負けシーンはよ。みーちゃん陵辱差分百枚希望。あとエロステータスも希望」

「絵師さん死んじゃうよ!? というかそんな物を希望するな!」

「み、未来さんのえっちなステータスですか……」

「やめろ俺をそんな目で見るなムッツリアイドル」

「ん。ちなみにみーちゃんのはにじゅ「やめて言葉にしないで! 俺も正確な数値は知らないから! 知りたくないから!」」


 もう周りから目立つなんぞ知るか。そうしていつものやり取りを続けた結果……



「ほらもう誰も話聞いてないじゃん。いや、俺のせいなんだけども」


 レクと席決め。……先にレクを決めようとしてるのだが、誰も……いや、ほとんど話を聞いていない。主に男子が。


「とにかく、レクの案出してくれる人!」

 そう言っても、なかなか手は上がらない。……いや、正確には一人だけ手は上がっているのだが。


「ね……ねえ。九条さんの手が上がってるよ」

「マトモな答えを期待してない。というかふざけるだろ。絶対」


 どうにか視界から外そうとするが、零の主張が強い。気づけば俺の視界の中にいる。てかどうやってん入ってきてんだ!?


「で、でも。もしかしたらちゃんとした意見があるかもしれないよ?」

「……………………そうだな。念の為聞いてみるか。という事で零」

「みーちゃんのメイド喫茶!」

「一人だけ違う時空生きてんな!? 帰れ! 元の時空に!」

「文化祭の出し物で提案したらみーちゃんに秒で断られたから渡って来たのに……」

「数ヶ月先に伏線張るんじゃねえ! 多分ほとんどの人が忘れてるぞ! そんなの! それと、天地がひっくり返ろうがその提案に乗ることは無い。諦めて元の零に戻れ」

「……? 私は元々私だよ? 何言ってんの? みーちゃん。ストレス溜まってる? おっぱい揉む?」

「お前マジで一発ぶん殴ってやろうか」

「良いよ……みーちゃんの想い、全部受け止めてあげる!」

「ブレーキの壊れた車かよ」

「元々取り付いてないだけだよ」

「欠陥品じゃねえか!」

「ふふ……でも契約済みだからね。十年前の六月一日に」

「お前が俺を押し倒して結婚を迫ってきた日だな」

「お……覚えててくれてたんだ」

「知ってるか? 恐ろしい事に、その日の話月一でしてるんだぞ? もう百二十回近く話してるんだぞ? 今月はまだ無かったから油断して……た…………が?」


 ふと違和感を覚えた。だが、すぐに気づけた。


 話し声が俺と零以外から聞こえないのだ。いや、それはそうなのかもしれない。


 教壇の前でこんな事をしていればそりゃ目立つだろうが。


「…………」

「……? どうかした? みーちゃん。そんな黒歴史をほじり返されたみたいな顔して」

「大正解だわ! これ! 中学の時と完全に同じノリじゃねーか! 周りにドン引かれるやつ!」

「てへっ」

「イラッ」

 可愛らしく小首を傾げる零が無駄に可愛くてイラッとする。


 ……………………………………まあ、よしとしよう。皆話を聞いてくれそうだし。


「という訳だ。レクの案を出して欲しい」

「お前のメンタルも大概だな!? 心臓剛毛過ぎない!?」

「うるさいぞ。豪。みんなの迷惑だろうが」

「ぶん殴っていい?」


 豪の軽口は受け流しつつ、みんなを見る。唖然としてるな。実際、俺も軽口でどうにかしていたが本音を言うとゲロ吐きそう。腹痛い。


 その時、星の手が上がった。


「ぶ、無難にバレーでどうかな? 遠足って海行くんだよね?」

「おお。やっとまともなのが来た。バレーってビーチバレーか?」

「うん、それなら痛くないし、女子だって参加出来るっしょ?」

「良いな。よし、他にあるか?」


 ……すると、ちょこんと手が上がった。彩夏だ。


「ドッジボールとかやってみたいです。ボク」

「ドッジボールか……ビーチだとボールが飛んでいって危ないが、近くの広場なら出来るな。よし、次」



 星と彩夏のお陰で流れが変わったのだろう。続々と手が上がるようになった。あと、朝のアレで申し訳なく思っていた生徒も居なくもないのかもしれない。許すつもりは無いが。


 そうして黒板に続々と文字が書かれていく。浜中の字は達筆で読みやすい。


「……こんなもんか。よし、それじゃ候補を絞っていく。自分がやりたい物に手を上げていってくれ」


 時間の都合もあり、手も上がらなくなってきたのでそこで終了となる。


 そうして……候補が二つに絞られた。


「ビーチバレーとドッジボール。この二つで良いか? 他に良い物とかあれば言ってくれ」


 ……とは言ったものの、そこで手は…………普通なら上がらないんだろうがなぁ……


「言っとくが零。ふざけるなよ?」

「失礼な。私はいつでも真剣」

「もし俺関連のものだったら、バスの席決めで俺の近くの席は絶対に取らせないからな」


 スっと零の手が下ろされた。思わずじろりと見るが、知らん顔をされる。


「……まあいい。それじゃ次、バスの席決めだ。今から黒板に席を書く。……ああ、そうだ。バス酔いしやすい生徒は居るか? 居るなら先に窓際を取ってくれ」


 俺の言葉に数人の生徒が立ち上がる。


 ……そして、そこから先は順調に進んだ。やけに女子からの視線が生暖かい気がしたが。


 特に何事も無く、鐘が鳴るのとほぼ同時に席も決め終わったのだった。

続きは夕方〜夜にかけて更新します。

面白い、続きが気になると感じてくれた方は下から★を入れてくれるととても嬉しいです!

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