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082 願望の指名

「さぁ2学期末テストだけれど……慎見さんから一つ提案があるそうよ」

「テストは個人戦だけど、A組団体として協力して点数を上げてもいいと思う。そこでペアを組もうと思うんだ」

「具体的にどんなペアにするんですか?」

「例えばこのクラスで最下位の人は1位の人と、ドベ2の人は2位の人と組むって感じ」


 こうすることで下の人は安全に引っ張ることができるし、中位の人は同じレベルの人と勉強することで隙間を埋めていける。


「ではペアに分かれましょうか」


 なぜこんなに有栖さんが協力的になってくれているかというと、私が事前に話を通してあるから。

 有栖さんは全面的にお嬢さま探しを手伝ってくれている。そのため、今回も協力してくれたってわけ。

 有栖さんは吹雪さんと。エレナは海咲さんと。神村さんは三国さんと。柚子さんは天月さんと。そして私は桃園さんとペアになった。


「よろしくね、結衣ちゃん☆」

「……うん。よろしく」


 私は少しニヤッとして桃園さんの言葉に答えた。

 もし……もしこのテストの問題を間違えたら私は大きな勘違いをしていたことになるし、そして何より……私の大きな決心が揺らいでしまうかもしれない。


「じゃあ勉強を……ってあれ? 他のみんなは?」

「他のみんなは有栖さんに連れられて図書室に行ったみたいだよ」

「……へぇ、そうなんだ」


 出たな素の桃園さん!

 こっちの方が話しやすいし、っていうか素できてくれないと今日は困る。


「ごめん桃園さん。いったん手を止めるね」

「なに? 集中できない?」

「ううん。緊張しているだけ。桃園さんもじゃない?」

「……なにが?」





「だって…………私を金楼に連れてきたお嬢さま、桃園さんでしょ」





 私が核心をつく言葉を放った瞬間、桃園さんの顔から余裕がなくなっていた。


「なんで……どうして……」

「ふはっーーー! よかった……その表情なら合ってたみたいだね」

「え、ええっ!?」

「ごめん。この推理はガバガバ。っていうか……ただの願望だったんだよ」

「願望……?」

「うん。桃園さんだったらいいなぁって」


 私がそう言った瞬間、桃園さんが顔を真っ赤にしてしまった。


「そ、それはどうして……」

「んー……桃園さんのことがたぶん好きだから」

「た、たぶん?」

「うん。たぶん。ごめん本当に曖昧で」


 たぶん私は桃園さんのことが好きだ。居心地が良くて、話しやすくて、私のことを考えていてくれて、そして何より……私をこの大好きなA組に入れてくれた。


「実は桃園さんって勇気出していたでしょ。文化祭で」

「そ、そこまでバレているんだ」

「うん。でもやっぱりチキンだね。メイドさんの言う通り」

「阿佐ヶ谷……余計なことを……」


 文化祭で結ばれる条件は3つ。

 1.手を繋ぐこと

 2.間接キス

 3.金色のものをプレゼント


 私がクラスのみんなにヘルプを頼むときに桃園さんは手を取った。

 暑くて汗が止まらないとき、桃園さんも使ったタオルで顔を拭いた。主に口元を。

 終わった後、パシリでジュースを買いに行ったときに500円玉を受け取った。

 全部……桃園さんはチキンなりに頑張っていたみたいだ。


「はぁ〜……正直言って生きた心地しない8ヶ月だったなぁ。慎見さんにいつバレるか不安だったし、近づくのも恥ずかしかったし」

「後付けだけど今なら桃園さんがお嬢さまだってすぐにわかるかも」

「え? どうして?」

「だって初めて素の桃園さんと出会ったとき、三国さんたちのことは呼び捨てだったのに私のことは『さん』付けだったでしょ? まぁそういうことかなってね」

「……敵に回してはいけない人を好きになったかもなぁ。おめでとう、これで10億円は慎見さんのものだね」

「いらない」

「……え?」

「いらないよ、10億円なんて」


 途中から気がついていた。私は10億円という大金と向き合っているんじゃなく、恋と向き合っているんだって。


「私が欲しいのは……これ」


 指さしたのは桃園さんの鼻先。

 私なりの……チキンが移った告白だった。


「こ、こんなのでよければ……あげるよ、いくらでも」

「そう、それなら良かった」


 私の好きはまだ「たぶん」だけど……

 これからきっと確信した「好き」になるんだと思う。


「ありがとう桃園さん……いや、藍」

「っ!」

「私を……金楼に入れてくれて。私を好きになってくれて。私をA組の一員にしてくれて。ありがとう」


 勇気と、向き合うこと。

 この2つは私の高校生活に大きく影響を及ぼした。


 お嬢様たちにも夢があるって知れたのは天月さんからだ。

 お嬢様もわんぱくなんだって知れたのは海咲さんからだ。

 お嬢様でも俗っぽいんだって知れたのは神村さんからだ。

 向き合えるように背中を押してくれたのは有栖さんだ。それを支えてくれていたのは柚子さんだ。

 好意を向けてくれたのはエレナだ。

 自分らしくあることを教えてくれたのは三国さんだ。

 今回踏み出そうと勇気を出すきっかけになったのは吹雪さんと金華さんだ。

 そして私が好きになったのは……藍だ。


「私はA組が大好き。だから……1年生の残りの3ヶ月で藍への思いに決着をつけるし、そのまま綺麗な身で……A組みんなで卒業したい」

「うん……うん!」


 私は心から、笑っている気がする。

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