081 勇気
目が覚めると保健室の天井が視界に映った。それと同時に、神村さんとエレナ、それから吹雪さんの顔も映る。
「あ……おはようみんな」
「よかった。心配しましたよ結衣さん」
「ごめんな〜結衣ちゃん。僕のサーブのせいで」
「いやいや、自分のレシーブミスだから」
顔の痛みはない。たぶん当たりどころが悪かったんだと思う。
「ねぇ、この学校が経つ前にここって何だったかわかる?」
「一応は……縁結びの神様が祀られる神社だったと記憶しています」
「おっ、さすが神社の娘だ」
神村さんの知識によって、金華の存在が証明されてしまった。あれは単なる夢ではなかったか。
なら……私の文化祭の行為が届いたってことは……
「どうされました結衣さん、少し顔が険しいですよ」
「ううん、考え事。といってもそんなに深刻なことではないけどね」
「あっ、後期期末試験のことか? 真面目だな〜結衣ちゃんは」
確かに3週間後には後期の期末テストが始まる。それも悩みの種ではあるが……。それはまぁ策を講じれば一挙両得の手段になるはずだ。
「ちょっといいかな。吹雪さんだけ残して2人は戻ってくれる?」
「おっ、僕だけに用事か〜。告白か? 告白なのか?」
エレナと神村さんは不思議そうにしていたけど、ゆっくりと保健室から出て行った。
私は心の中で「ごめん」とだけ呟いて、言葉を紡いだ。
「ねぇ吹雪さん……どうして私のことが好きなの?」
「……ん? んんっ!?」
私は鈍いが、それでもわかる。吹雪さんはおそらく私のことが好きだと。エレナの好きとは違う。エレナから感じる好きは友愛。ただ……吹雪さんから感じるのは勘違いでなければ恋からくる愛だった。
「ごめん、順番を間違えたかも。吹雪さんは私のこと好き?」
「んんんー!?」
いつもの歯切れのよさはどこへやら。吹雪さんは顔を赤くして手を振ってわけわからないことになっている。
「吹雪さん、答えて」
「お、おお〜……深呼吸してもいいか?」
「どうぞどうぞ」
本当に大げさに深呼吸をした吹雪さん。
「バレてたか。うん……そうだな……その……す、好きだよ。結衣ちゃんのこと……」
「そっか。ありがとう」
…………………………………
「えっ!? それだけか!? なんか返事とかないのか!?」
「えっ!? 返事がいるの!?」
「こっちは勇気振り絞ったんだぞ!? そんなのってないだろ!!」
「そ、そっか……吹雪さんでも振り絞らないとダメだもんね。よくわかったよありがとう」
「なんか今日の結衣ちゃん変だぞ……」
「返事は……」
「あぁ待った! やっぱなし! なし! それ聞けるほどの勇気はまだないかも!」
「そ、そっか……」
乙女心は繊細だ。吹雪さんですらこうだもんな。
そう、勇気だ。勇気がいる……。
私は一つ、決心した。