080 吹雪の過去
あれは……何年前のことだろうなぁ。
「吹雪、いつも言っているはずだ。女は女らしく生きろと。では再び問おう。お前の一人称は?」
「ぼ……私……です……」
「そう、それでいい」
僕は厳格な父の元に生まれた。仕方がないかもしれない。父はスウェーデン王室の血を受け継ぐ名家の出身だから。
「そうよ吹雪。せっかく可愛いお顔と綺麗な長い髪なんだから女の子らしく生きないと」
母はそんな厳格な父に陶酔し、父の言うことに絶対服従している。父はスウェーデン人。母は日本人。だけど家庭の中は昭和の価値観色濃い日本のステレオタイプな性別観が残っていた。
僕はいつも嫌になって父と母の目を盗んで格闘技に打ち込んでいた。といってももちろん先生をつけてもらえるわけもなく、我流100%だけどな。
「ほっ! はあっ!」
忍んで買ったトレーニングウェアを着て、誰も使わない市民公園で汗を流す。
僕がこんなことをしているだなんて知ったら驚くだろうなぁ。
そんな時、隣に親子がやってきて軽い運動を始めた。かなり肌が白い子だから運動不足の解消のためかな〜なんて思っていたよ。
「結衣ちゃん、少しのランニングね」
「う、うん」
やりたくなさそうな表情の当時の結衣ちゃん。僕としてはあの表情が忘れられなかった。
親から言われて渋々やること。それの辛さは僕もわかっているつもりだったからな。ピアノや生け花なんかをやらされたものだよ。
「吹雪!」
1時間後、市民公園に大きな声が通った。
見るまでもなく、僕の父だったよ。正確には……見たくない顔だったから見なかった、かな。
「何をしているんだこんなところで。しかもその服……」
「……別にいいだろう。僕の勝手じゃないか」
「また僕と……吹雪! 女は女らしく生きていればいいんだ!」
今思えばってか、いつ思ってもこんな考えの父とよく縁を切ってないよな。まぁ……この後の結衣ちゃんの言葉で父も少しだけ変わったんだけど。
「僕にパパの理想を押し付けないでくれよ!」
パン! と頬を打たれた。こんなことは初めてで、僕はどうすればいいかわからなかった。
ちょうど公園を走ってきて戻った結衣ちゃんは……この時僕の前に立って庇ってくれたんだよ? 信じられるか?
「……ぶ、ぶっちゃダメだと思います」
「……君には関係のないことだ。どきなさい」
「ぶたないと約束できるならどきます」
「……いいだろう。どきなさい」
「あともう一つ。この綺麗な子のやりたいようにやらせてあげてもいいんじゃないですか?」
結衣ちゃんって、強い子だよなぁ。
人の痛みを理解して、自分の主張を強い者にも物怖じせずぶつける。本当にかっこいい子だよ。
「……それは君が決めることではない」
そう言ってパパは僕を連れて行った。
でも僕はこの日に吹っ切れた。伸ばした髪はさっぱり切って、格闘技も堂々とやって、なりたい自分になってやった。
もう会うことはないと思ってた結衣ちゃんとまた出会うことができる方法もあった。
僕は見た目が変わったから結衣ちゃんも気がつかないだろうけどさ、僕は結衣ちゃんのこと……ずっと前から……
この先は、言わなくてもわかるよな?
新連載『疑似家族プログラムで美少女4人のパパになった』
が始まりました!
百合以外の作品に挑戦してみました。興味のある方は読んでみてください!!