078 神様
それは……体育のバレーボール中に起こった。
「行くぞ結衣ちゃん。おりゃ!」
吹雪さんのサーブは強い。ぶっちゃけ怖いけど、チームに迷惑はかけたくないのでぶつかりにいく。
レシーブを決めようとしたけど、少し腕の角度がズレていることに気がついた。
「しまっ……ぶぶっ!」
私の腕で跳ね返ったボールは顔面にヒットし、私の意識を飛ばした。みんなが駆け寄ってくれているのは見えたけど、そこから先は暗転する。
◆
真っ白な空間。本当に何もない。
……え? 私死んだの? 体育のバレーボールで? 熱中症でもないのに?
「死んではおらんぞ」
誰かに声をかけられ、ビクッと体が震えてしまった。
「こっちじゃ結衣。こちらを見よ」
声のする方へ振り返ると、薄桃色ロングの髪を揺らし、薄手のワンピースを着た女の子が宙に浮かんで座っていた。
やっぱり死んでんじゃんこれ。浮いているし……
「だから死んではおらぬ。少し気を失っただけじゃ」
……!? 心を読んだ!? ってか声が出せない!
「声を出す必要はないぞ。妾はお主の心の中を読めるからのぉ」
なんてこった……おかしな夢を見ているな。疲れているのかな?
「夢でもないのじゃが……まぁよい。お主には会いたかったぞ結衣。お主が気を失わなければ会えないのだが、授業中に寝るタイプじゃないからのぉ。吹雪に感謝よ」
えっと……心で質問すればいいのかな? あなたは誰ですか?
「妾は金楼が建つ前に存在した土地神。名はそうじゃの……金華と呼べ」
金華さん……神様……なるほどわかんねぇ。
「妾は縁結びの神。だからお主らの言う文化祭で、あのような噂が広がっておるのよ。理解できたかえ?」
あー、あの文化祭の。文化祭当日は忙しすぎて忘れてたわ。
それで、その神様が私に何の用です?
「お主は面白い理由で金楼の土地に踏み入れているからの。前々から接触したかったのじゃ」
面白い理由……あのお嬢さまのことか?
「いかにも。ずっと平凡な生徒ばかりで退屈しておったが、お主は特別じゃ。面白い」
神様ならお嬢さまの正体を知っているんじゃないですか?
「うむ。もちろん知っておるぞ」
……!
正直言って信じていなかったので、その即答には驚いた。金華さんはシシっと笑い、私に何かを期待しているようだ。
「だが先に言っておく。教えるつもりはない。妾の楽しみが減るからのぉ」
楽しみって……私の人生をなんだと思っているんですか。
「お主こそ妾の神生をなんだと思っておる。退屈じゃぞ〜〜」
まぁそれはいいとして、今回私に会った目的がまだ見えてこない。なんのために私に接触したんだ? この神様は。
「お主……迷っとるな?」
え?
核心を突くような言葉を言われ、私の体は強張った。
「お主のことを好きで好きでたまらない娘は当然のように結ばれたいと考えておる。ではお主はどうじゃ?」
私は……私は……
「ふっ、誰かも知らぬ相手と結ばれることを考えよというのも酷じゃな」
まぁそれは間違いないですね。
そう思った瞬間、私の体がふわっと持ち上がった。
「む。時間か。お主の目が覚める。じゃあの」
えぇ〜!? まだ聞きたいことあるのに!
「そうじゃ。一つだけ。決めるのはお主じゃが……文化祭での行為は受け取った。それだけは伝えておくぞ」
私の意識は引っ張られていった。