077 カレンと葡萄
カップルのフリしてカフェに入店すると、改めてカレンちゃんを意識せざるを得なくなった。
ガーリー系というか、ともかくオシャレだ。小柄ながらにしっかりと着こなしている。
問題は私だな。ジャージて。まぁアニメショップに行ったら直帰の予定だったし、仕方ないだろう。
「ご、ごめんねカレンちゃん。こんな格好で」
「いえいえ、機能的な服をお選びになる方を否定することはしません!」
いい子や……お母さん泣いちゃう。
母性がくすぐられているうちに店員さんがやってきて、席に案内された。もう頼むメニューは決まっているため、その場で注文することになる。
「カップル限定のパフェ、お願いします!」
輝かしい目でパフェを頼むカレンちゃん。大人びているところがあるけれど、こういうところはまだまだ中学生だなぁと思う。
「お2人はカップルでお間違い無かったですか?」
「は、はい。お間違い無いです」
少しの罪悪感。お嬢さまに対してだろうか。それとも店側に対してだろうか。
しばらく待っていると紫色と白色のグラデーション鮮やかなパフェが運ばれてきた。なるほど、10月の時期にぴったりな葡萄のパフェか。
「葡萄の……パフェ……」
「ん? 葡萄苦手だった?」
「いえいえ! 大好きですよ♪」
「そ。それならよかった」
スプーンが2つ置いてあるけどこのパフェはカレンちゃんのものだ。私は手をつけず、好きなものを頬張る美少女を監視させてもらおう。
「さぁ、結衣お姉さま食べましょう!」
「え? せっかくカレンちゃんの好きなパフェがあるのに私も?」
「2人で食べた方が美味しいですよ♪」
「でもお金が……」
「もちろん私が払います! 私のわがままですもん!」
そう言われては仕方がない。後輩に払わせるのは気がひけるけど、残念ながら貧乏人としては飲み込むしかないからな。あとは空気が悪くならないよう、しっかり食べることが大事だ。
大きな葡萄をスプーンですくって口へ運ぶ。ジューシーかつ甘い。タネもなくて食べやすい。うんうん、最高のパフェじゃん。
まるでカニを食べる時のように……まぁ食べたことないけど。ともかく無言でひたすらパフェにかぶりついた。
よくやく会話が再開したのは完食して、お支払いを済ませて店を出てからだった。
「……結衣お姉さま、葡萄の花言葉はご存知ですか?」
「ん〜……そういうのはちょっと疎くて……」
「では葡萄の花の開花時期は?」
「それもちょっと……」
あんまりそういうことは勉強してこなかったからな。
「ちなみに葡萄の花言葉は陶酔、葡萄の花の開花時期は6月ごろです」
「へー。詳しいんだね」
私がそう返すと、カレンちゃんは少しだけ顔を赤くして、二、三歩私から離れた。
「え、エレナお嬢様が結衣お姉さまをお慕いしたのが先でも……私は遅咲きの葡萄の花になるかもしれません! そ、それでは!」
「え、ええっ!?」
なんかポエマーらしいことを言って走り去ってしまった。何が言いたいのかはわからなかったけど、まぁ……いっか。
「またね、カレンちゃん」
思わぬ休日となったのだった。