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070 球技大会:後編

 私たちは破竹の勢いで2回戦目も突破し……ついに決勝戦を迎えた。決勝戦の相手は当然のように日本代表である澤澄先輩のクラス、3年B組だ。

 逃げ切りを図る私たちとは違い、澤澄先輩は後半に出てくる作戦を取っている。その結果ここまでの2試合、3年B組はすべて8点差以上をつけるおおよそプロの試合では考えられないレベルの点差をつけて勝ってきている。


 試合開始直前、ベンチにいた澤澄さんが私に近づいてきた。上背は吹雪さんほどではないにしろ、私よりは大きい。金楼には珍しいタイプの顔で、少しごつごつとした印象だ。


「君……面白いね。ウチの部でもやれるんじゃない? 若菜とも仲がいいみたいだし」

「い、いや……私なんて全然」

「ウチと同じ匂いがする。ずっとサッカーの映像をかじるように見て得た実力だ」

「まぁ……そうですね……」

「ふっ、まぁいい返事を期待しているよ」


 手を振って去っていった澤澄先輩。なんというか、本当にスターって感じだな。


「それではこれより決勝戦を始めます!」


 有栖さんが言うには3年B組にも弱点はある。それは澤澄先輩に頼りすぎていて、周りの人が消極的であるということ! そして勝つことを当たり前だと思っていること。


「行きますわよ皆さん。作戦名……『メンタルブレイク!』」

「「「はい!!!」」」


 我がAクラスながら酷い作戦名だ。でもまぁわかりやすい!


「結衣さーーん! ポジションは離れていますが心は一つですよ〜」

「ギャラリー多いからそういうのやめてくれない!?」


 いつものエレナとのノリを全校生徒のほとんどに見られるのはしんどい!


 ピーーーッ!!!


 ついに始まった決勝戦! 私に取っては通知表なんてどうでもよくて、ただお嬢様たちに勝ちたい一心でやっている。

 だから……


「うりゃ!」

「結衣ちゃんナイスロングシュート!」


 ここは……勝たせてもらう!

 バンバン点を取って、流れを完全にこちらに引き寄せた。三国さんと有栖さん、柚子さんと海咲さん、桃園さんも追加点を取り、前半を6-0で終えた。


「ここまでは作戦通りですわ。あとは……どれだけ澤澄さんがやってくるかですわね」

「とにかく耐えましょう。6点取られなければいいんですから!」


 後半開始とともに予想通り澤澄さんが登場した。本来は中盤の選手だが、球技大会に限定して前線に出ている。


「さ、いこうか」

「えっ……」


 風が吹いたように横を通過した澤澄先輩。速い……というか滑らかだ。無駄な動きが一切ない!


「柚子、止めなさい!」

「はっ!」


 柚子さんが完ぺきに間合いに入って止めようとする。有栖さんの叫びからかなり危機的状況なのだとわかる。


「うわ……君すごいね。隙なさすぎ。でも……力みすぎ!」

「なっ!?」


 柚子さんの足にわざとボールを当ててシュート。不規則に変化した軌道を描くボールは吹雪さんの反射神経をもってしても間に合うことはなく、そのままネットを突き刺した。


「マジか……」


 その後も立て続けにゴールを奪われ、6点あったリードはいつのまにか1点のビハインド、つまり6-7までひっくり返されていた。

 私たちは前に進むことができずに試合終了の笛を聴いた。


「くっ……」

「…………仕方ありませんわ。でも大丈夫、わたくしたちにはまだ2年もありますもの。来年は別の種目でしょうけど、まだまだチャンスはありますわ」

「そうだね、次の金楼を背負うのは君たちだからさ」


 そう言って澤澄先輩は立ち去っていった。不思議な先輩だと思う。


 結局MVPは当然のように澤澄先輩が選ばれた。ただ通知表に書かれる選手は該当者が広がって、例えば3年B組のアシストを多くした先輩や、ウチのクラスでは海咲さんが運動量を買われて受賞した。

 負けて悔しいが……本気になれたのは久々で、楽しかったかな。

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