068 ご褒美
「1年A組、全員集合である!」
全面の芝生。
あまりに緑豊かな光景に目を疑うが、ここは外国の草原ではなく名古屋の一帯だ。どうやら金楼が買い取って、球技大会のための体育施設にしたらしい。どんだけ金あるんだよ。
ちなみに今回の球技大会の開催は近頃の若者は体力が落ちている! という考えのもと決まったらしい。多くの生徒が日本を引っ張っていくであろう金楼としては体力のないものを卒業生として送り出したくなかったのだろう。
こうして開催される8人制サッカーだけど……とりあえず三国さんがサッカー部ということで指令を出している。コーチのような存在だな。
「球技大会まであと1週間。ちなみに球技大会での活躍した選手への賞品について委員長から報告がある」
賞品? この世の物事を金で解決することが可能なお嬢様がやる気になれる賞品なんてあるのか?
「えぇ。賞品は……通知表のその他欄に『球技大会優秀選手』と書かれるわ」
何それ。いらない。
と思ったけど、A組の中でも何人かの目がメラッと燃えたのがわかった。
「ねぇエレナ、通知表に書かれることってそんなに大事なの?」
「はい。金楼の通知表のその他欄はとんでもないブランドを持っていて、そこに一つでも何かが書いてあれば大抵の大学に進むことができる超プラチナ文字なんですよ!」
な、なるほど。たしかにそれは金では買えないから貴重なのかもな。っていうかそれなら私も欲しいわ。
「そして報告であるが、金楼は1クラス10人。当然だが8人制サッカーだと2人ベンチになる。そしてこの前の会議でサッカー部は試合時間の半分しか出られないことが決定した」
なるほど……まぁそれくらいの措置は必要だよな。ゲームバランス壊れかねないし。
「はい! 試合時間ってどれくらいなの?」
「前後半10分ずつ。計20分だ」
うわ……結構長いな。普通に疲れるぞこれ。
「今日は各員のポジションを決めるわ。わたくしの意見と三国さんの意見を総合した結果、ゴールキーパー、守備3人、真ん中2人、攻撃2人のフォーメーションでいくことにしました」
3バック、2センター、2トップか。まぁ王道だな。
「ただ各ポジションに誰を配置するか決まっていないのよねぇ。特にキーパーだけは決めたいのだけれど……」
ん? そんなに悩むことかなそれ。
「はい。キーパーは吹雪さんがいいと思う」
「えっ? 僕か?」
「理由、聞かせてもらえるかしら?」
「はい。吹雪さんって格闘技しているからボールを怖がることはないと思うし、上背もある。声も通るから指示も出る。ピッタリだと思う」
「そう言われると僕にピッタリかもな」
吹雪さんが良いならとあっさりキーパーは吹雪さんに決定した。
「次に守備の3人だけれど……」
「はい。右にエレナ、左に桃園さん、真ん中に柚子さんがいいと思う」
「……り、理由を聞かせてくれるかしら?」
「守備の要の真ん中は万能な柚子さんで、両サイドはバランスを取れる2人がいいかなと思って」
「2人がいいのならそうするけれど……」
エレナと桃園さんに意義はなさそうだった。
「で、では真ん中2人は……」
「そこは三国さんと有栖さんかな」
「ほ、ほう……?」
「経験者とリーダーが舵取りをするのは理にかなっていると思う」
「なるほど……」
「ちなみに三国さんとの交代は天月さんか神村さんがいいかな。落ち着きがあるから」
ふむ、我ながらいい感じの配置だ。
「では攻撃2人が慎見さんと海咲さんということでよろしいかしら?」
「うん。私も一応少しだけならサッカーできるし、海咲さんは元気だから前からプレスを……あぁ、ボールを追いかけてくれると思う」
「な、なるほど……」
よくよく考えてみたらまるでサッカーをしてみてくださいみたいなクラスだな。いい感じに個性がバラけている。
「慎見さんの方がクラスメイトの特徴を掴んでいますわね」
「……ん?」
有栖さんが驚きのあまり口を半開きにしているところは初めてお目にかかった気がする。
1年A組 球技大会 登録ポジション
GK 吹雪・ヤルクスベリ
DF 本郷エレナ、桃園藍、土御門柚子
MF 御陵院有栖、三国若菜、(サブ)天月歌子、神村巫女
FW 慎見結衣、海咲マリン