065 文化祭終了
「あ〜〜〜〜〜、疲れました……」
たませんを売り切り、大好評のまま店じめをした。もう帰ったり2年生以上の展示を見ても良いんだけど、たません班は自然とA組の教室に集まって自席でだらんと溶けるように座っていた。
「結局文化祭なんて1ミリも楽しめなかったじゃん」
「そんなことありません。慎見さんすっごく楽しそうでした」
天月さんに言われて気がついた。そうか、私は楽しんでいたのか。
たしかに忙しすぎて麻痺していたけど、こんなに『仲間』というものと『本気で』何かに打ち込むなんて初めてかもしれない。ならまぁ……楽しかったといっても良いかもしれない。
「結衣ちゃんありがとうね☆ 結衣ちゃんがリーダーだったから成功できたんだと思うよ!」
「あ、ありがとう桃園さん……」
心の内ではどう思っているかわからないけど、その言葉はまぁまぁ嬉しかった。
まぁ確かに上手く物事は進んだ。でも有栖さんがリーダーだったら……もっと上手くいったんじゃないかとか考えてしまう。
ダメだダメだ、あんな天上人のような人と自分を比較してどうする! 私は庶民、慎見結衣だ!
「そういえば喉乾きませんか?」
「そうだね。持ってきた水も飲み切っちゃった」
「……じゃあこうしよー! じゃんけんで負けた人が3階の自動販売機でジュースを買ってくるの!」
「いいですね。そういうのやったことないので楽しそう!」
ふふ、じゃんけんを私に挑むとは愚かなお嬢様どもよ。
じゃんけんは庶民の遊戯。それでお嬢様に負けてたまるかってんだ!
「さーいしょはグー! じゃんけん、ポン!」
「な、なにぃ!?」
エレナ、グー。天月さん、グー。桃園さん、グー。私、チョキ。まさかの1発負けだと……?
「やったー☆ 結衣ちゃんの負け〜」
「ぐぬぬ……」
財布に小銭あったかな……3階の自動販売機ってことは庶民の食育コーナーだから安い自動販売機だろうけど……
「しまった……お金ないや……」
「本当? じゃあはい、500円玉だよ☆」
「あぁ……ありがとう。明日返すね」
まぁこのお金もどうせ「お嬢さま」から返ってくるのだから、私には痛くも何ともないな。
「みんな欲しいものは?」
「私は父から清涼飲料水は喉に良くないからと言われているので、お水でお願いします」
「私は結衣さんの買うものなら何でもいいですよ」
「はいはい! 甘いもの〜」
水、何でも、甘いものね。オーケーオーケー。
3階の自動販売機に到着して、ピカピカの500円玉を入れて水、ジュース、缶コーヒー、そして私のミルクティーを選ぶ。
4つもの飲み物を持って階段を降りるのは難しいけど、まぁ何とかなるだろと思って慎重に一歩ずつ踏み出した。
A組に戻ると歓迎ムードで、みんなに待望の飲み物を渡した。
そこからはみんなで「あの時間は大変だった」だの、「あそこで焦がしちゃってパニクった」だの、思い出に浸る話をした。
……うん、やっぱり良い思い出になりそうだな。
こうして文化祭は幕を下ろした。
……自分の知らないところで、大きなフラグが動いていたことに、私は気がつくことができなかった。
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