061 文化祭のお店
「……っと、言うわけで文化祭だ。繰り返すが1年は飲食店の出店がメインになる。何か質問あるやつは?」
佐藤先生がプリントをガン見しながら私たちに文化祭についての詳細を伝える。……全然覚えてこなかったんだな。
それにしても飲食店の出店かぁ。……お嬢様たちが考える出店ってなんだろう。不安でしかない。
「あー、じゃあ委員長よろしく」
「かしこまりましたわ」
いや有栖さんに任せるんかい!
ツッコみたい気持ちをなんとか心の中でだけに留めて、とりあえず有栖さんの言葉を傾聴することにした。
「生憎だけれどわたくし、飲食店にはなかなか行かないのよね。皆さんアイデアをくださる?」
「はい!」
元気よく手を挙げたのは海咲さんだった。
「結衣ちゃんは魚捌くの上手かったよ! だからお寿司屋さんは?」
う、嘘だろ!? この残暑真っ只中の9月に刺身作れと!? 文化祭じゃなくて食あたり祭になるぞ!?
「この時期に生モノはあまりよろしくないんじゃないかしら」
良かった……有栖さんは一応その辺の常識も持っているようだ。
「ちょっと待った。マリンちゃんさぁ、なんで結衣ちゃんが魚を捌けるって知ってるんだ?」
「ふふん! アタシは結衣ちゃんの捌いたクロダイのムニエルを食べたもんね〜」
「なっ……んだと……」
「はいはい、そっちで勝手に電流走らないでくださいます?」
改めてこのクラスをまとめる有栖さんすげぇと思った。向いている方向が基本的にバラバラなんだよなぁ。
「質問いいですか? 原価や目標売上高などは決まっているんですか?」
「いいえ。とりあえず出店さえすればいくら売れ残ろうと構いませんわ。大事なのは運営経験ですからね」
「ではシャトーブリアンをステーキにするのはいかがですか?」
「そ、それも肉は生モノ判定ですわ」
議論は喧騒を深めていった。あーでもない、こーでもないと、世間知らずのお嬢様たちは騒いでいる。
基本的に新鮮なものしか知らないお嬢様たちにとって文化祭の出店で出せるようなものは知らないのだろう。だから私はポツリと言ってみた。
「……たませんで良くない?」
たませんとは名古屋名物と言えるかもしれないものだ。えびせんべいに、卵、ソースを挟んだら出来上がりだ。これだと寂しすぎる場合はチーズやベーコン、青のりなんかを入れても美味しい。
「た、たませんとは?」
「聞いたことあるかも。えっと……よく知らないけど!」
みんな名古屋の学校に通っている割には全然知らないのか。絶対に名古屋では王道なのに。
私はお嬢様たちにたませんについて詳しく説明してあげた。納得まで時間はかかったけど、おおよそのイメージはついたみたいだ。
「でもそんな簡素なもので喜べるでしょうか……」
「お嬢様たちっていつもいい物食べているんでしょ? なら逆にこういう時くらい普通のもの食べたら?」
「た、確かに。そっちの方が珍しくて好評かもしれません」
「決まりね。A組の出し物は『たません』これで行くわよ!」
どうやら少しだけこのクラスを引っ張っていく必要がありそうだ。