056 バカンスの行き先
指名を外した翌日。
夏休みを5日しか残していない今日という日に、また電話がかかってきた。ボイスチェンジャーを聞くことになるのかと思ったら、優雅で厳か、それでいて綺麗な声が受話器越しに聞こえてきた。
『ごきげんよう慎見さん。有栖ですわ』
なんと電話の主は有栖さんだった。別に悪いことをしたわけではないのに、少しだけ緊張してしまう。
「ご、ごきげんよう有栖さん。珍しいですね私に電話なんて」
『皆さんにはスマートフォンでお伝えしたのだけれど、貴女は持っていないですからね。本題ですがいきなりで申し訳ないのだけれど、明日からわたくしの有する別荘にてA組の親睦会を開こうと思うのだけれどどうかしら? 着替えさえあればあとは揃っているわよ』
「し、親睦会!?」
たしかにそういったイベントは一度も開かれなかった。そういう学生らしいことがしたくないと言えば嘘になる。
「い、行きたいですけど別荘をお借りするなんて……私そんなお金……」
『いいわよ無料で。わたくしが無理に言っているのだから』
む、無料!? 別荘使わせてくれるのに無料!? マジか……
「で、ではお言葉に甘えて行きたいです! みんな来るんですか?」
『えぇ。慎見さんを入れてこれでA組全員参加よ。明日の朝8時にお迎えに行きますわね』
「は、はい! よろしくお願いします!」
ここで電話は終わり、お母さんに明日の予定を伝えた。
A組が全員集合する親睦会……しかも別荘で! これは楽しそうだ。しかもお嬢さまのヒントも掴めるかもしれない。エレナが違った分、他の人へ警戒できるしな。
そして次の日。宣言通り8時ぴったしに私の家の前に高級車が止まった。
有栖さんたちは乗っていないようで、1人で車に乗せられる。
車に揺られていると空港についた。……え? なんで?
空港でようやくA組のみんなと合流できた。夏休みを挟んでも大きく変化した子はいない。ちょっと海咲さんと三国さんが日焼けしている気がするだけだ。
「み、みんなおはよう」
「おはようございます結衣さん! これで揃いましたね!」
「では行きますわよ。みんな搭乗ゲートへ」
え? 搭乗って……飛行機で行くの!? 別荘っててっきりその辺の山にあるのかと思ってたけど……遠いの? まさか南の島全部を保有していて、そこを別荘って呼んでいたり? まさかね。
息をつく間も無く飛行機は空へ飛びだち、名古屋の街が一望できるようになった。すげぇ……本当に空飛んでる。当たり前だけど初飛行機なんだよなぁ。
「ねぇ有栖さん、この飛行機ってどこを目指しているんですか?」
「あぁ、私の保有する第七有栖島ですわ。南の方にあって、海が綺麗なのよ」
「あ……そっすか」
マジで南の島持ってやがった!
やっぱりお嬢様学校の親睦会はスケールが違う。南の島を持っているということに私以外驚いてすらいないし。
こうして飛行機はぐんぐんと進み、やがてそこそこ大きな島に辿り着いた。
夏休み最後の思い出、A組親睦会が始まる!