053 後輩ちゃん
翌日、私は指定通りに名古屋駅へ足を運んだ。
桃園さんがショッピングセンターで選んでくれたパンツドレスを着て、まるでデートかのように気合が入っているように見えることだろう。
ちょっとボロいカバンにはお嬢さまから頂いた1万円が入っている。これを用いて、今日はこの名古屋駅にある美味しいものをたくさん買っていくつもりだ。お母さんと2人でご馳走だ〜!
「結衣さーーん!」
こ、この甘える猫のような声! まさか!
「え、エレナ!? なんでここに……」
「結衣さんをストーキング……じゃなかった、たまたま見かけたんですよ〜!」
「スト……まぁいいや。なんかもう慣れた」
「話が早くて助かります♪」
エレナは接触してきたか。もちろんお嬢さまとやらは隠れている可能性もあるが、そう思わせておいたエレナがお嬢さまだという可能性もある。
「じゃあ一緒に行く?」
「はい! もちろん!」
もしお嬢さまがエレナじゃなくて、この光景を見ているのだとしたら嫉妬心でいっぱいかもな。自分ならそうなるし。
名古屋駅のグルメゾーンに突入すると、さすがの賑わいを見せていた。
お団子、ケーキ、味噌カツ、銘菓、県外土産まで。
ただまぁここは主婦層が買いに来たりする。エレナみたいなお嬢様がこんなところで買うのだろうか。
「エレナはこういうの買ったりするの?」
「自分で買うことはないですが……食育として月に一度ほど並ぶことがありますね」
「なるほど、庶民の飯を学ぶということか」
なんかそれも癪だがもう慣れた。お嬢様とはこういう生き物だし、私たちとは違う。
「えっ!? カード使えないのか!? どうなっているんだよ!」
私たちが歩いていると、そんな声が聞こえてきた。なんか聞き馴染みのある声だ。
「……何してんの? 吹雪さん」
「おっ、結衣ちゃん! いやこのお店、今どきカードが使えないって言うからさぁ!」
せんべいの店か。まぁ……使えなくても仕方ないだろうなぁ。店主高齢だし、客層もお爺さん・お婆さんだし。
「それで? 吹雪さんはどうしてこんなところにいらしているんですか〜?」
「いちゃダメだったかな〜? 僕は僕の意思でここにいるんだけどなぁ〜?」
ダメだこの2人。二人三脚をしたくせに全然仲良くなってない。そういえばこのペアはボロ負けだったな。私と天月さんのペアで印象が薄れていたけど。
そんな2人のやり取りを見ているのは私だけではなかった。気がつけば少し背の低い女の子が私の隣にいて、主にエレナの方を見つめていた。
「エレナお嬢様!」
「誰……ってカレンじゃないですか」
「知り合い?」
「はい。一個下の子で、本郷家と繋がりが深いのでよく遊んだ仲なんですよ」
カレンと呼ばれた栗色ショートの女の子は私と吹雪さんを見て少し口角を上げ、スカートを持ち上げて丁寧にお辞儀した。
「初めまして。麻萌カレンと申します。来年にはエレナお嬢様が通われる金楼に入学する予定ですのでお見知り置きを」
その言葉を聞いて少しだけ体が震えた。ついに来たか後輩が……この接触、ただで済むか済まないか。慎重に見極めないとだな。