052 指名前日
夏休みの半分くらいが終わったところで、家に電話がかかってきた。
「もしもし?」
『ごきげんよう。慎見結衣さんですか?』
「そうですが……」
ボイスチェンジャーか。またメイドさんに電話をかけさせたわけだな。
『こんにちは。実はお嬢さまが駄々をこねてしまいましてね。なんでも結衣様にお会いできていないのが寂しいのだとか』
「おや? それではまるで夏休みでなければ毎日会っているかのような発言ですね」
『お嬢さまが通学中の結衣様を盗撮している可能性をお捨てにならないように』
サラッと犯罪告発してない? ウェア・イズ・肖像権。
「それで? その寂しくて死んでしまうウサギさんのようなお嬢さまは電話で何をしたいと?」
『話が早くて助かります。結衣様には明日、名古屋駅に行って欲しいのです』
「ほう、名古屋駅に……」
『明日、お嬢さまも予定なく名古屋駅に向かいます。そこで……勇気を出して結衣様の半径100メートル以内には確実に入られるそうです』
「あんな人混みで100メートルて。もう少し頑張れないの?」
『無理ですね。チキンなので』
名古屋駅で100メートル範囲内ってどれだけの人がいると思ってるんだよ。
『もちろんタダでとはいいません。先ほどポストに1万円入れたので、ぜひショッピングにご活用ください』
「人の金銭感覚を狂わせないでくれませんかねぇ」
まぁありがたいから使うけども。名古屋駅にはたくさん美味しそうなものが売ってるしね。いつかは食べてみたかった。
『それでは失礼します。明日、名古屋駅にてお嬢さまが勇気を振り絞り、結衣様とお話しできたらと思います』
「そうですね。そうしてくれたら楽ですね」
『ちなみに明日の夜、またお電話します。そこで第1回のお嬢さまの名前指名をよろしくお願いします』
「……了解しました。じゃ、また明日』
ゆっくり受話器を置いて、電話を切った。
お嬢さまの近くにいられるのは確定したわけか。ただ明日にはもうお嬢さまを言い当てないといけない。
まぁいいさ……なるようになる! 明日の出逢い次第で大きく変わろうと、変わらなかろうと、ズバッと指名してやるさ!