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051 若菜の油断

 初めて来たサッカースタジアム。

 隣の席に座ったのは……クラスメイトの三国若菜さんだった。


「い、意外だね。三国さんみたいなお嬢様ならvip席に座るのかと思っていた」

「全方位ガラスで囲まれたvip席だとせっかくのスタジアムの熱が感じられぬだろう」

「た、確かに?」


 なるほど、一理ある。

 それにしても三国さん、サッカー部とは言ってたけどちゃんとスタジアムに足を運んで観戦するタイプのサッカー好きだったんだ。

 今気がついたけどユニフォーム着ているし。


「ゆ、ユニフォームいいね」

「うむ。ダイヤモンド会員のみが着用できるユニフォームだ。お目が高い」


 ダイヤモンド会員……知ってるぞ、年会費15万円のモンスターカードだ。


「して、慎見さんもサッカーが好きであったのだな」

「う、うん。サッカー観るのってお金かかるから最近は代表戦くらいしか観れてないけど、好きなのは本当だよ」

「ならばサッカー部に入ってはくれぬか? 部員はいつでも募集中だ」

「や、やる方はちょっと……」

「むぅ、そうか……」


 本当は言うほど下手ではないんだけどね。処分品サッカーボールを500円で買って、毎日リフティング練習していた時もあったからそこそこはやれると思う。

 それにしても三国さんかぁ。なんか……あんまり絡みないまま夏休みまで来ちゃったから結構気まずいんだよなぁ。

 なんとも言えぬ気まずさを感じたまま、選手が入場してきた。そしてサポーターにとっては運命の一戦(全試合そう)が始まった。


 ゴール裏というガチ勢のみが集まるエリアからは大歓声と歌が聞こえてきた。これが生観戦の熱か! すげぇ〜!


「名古屋〜、俺らの〜 風を起こそう〜、その風に乗って どこまでも行こう」


 ……三国さん、歌を小さく口ずさんでいる。なんか小動物みたいで可愛いかもしれない。

 試合は1-2で応援しているチームが敗れてしまった。スタジアムは開始前よりどんよりした空気で、あまり気持ちの良いものではない。


「むぅ……敗戦か」

「結構熱い試合だったね」

「うむ。来た甲斐があるというものだ」


 三国さんは立ち上がり、帰る支度を始めた。私も帰ろうと思い後に続いて立ち上がる。

 スタジアムの階段は結構急で、油断していると躓きそうだ。


「きゃっ!?」

「三国さん!」


 目の前でよろけた三国さん。私はすかさず三国さんの手と腰を取り、なんとか支えることに成功した。なんか舞踏会みたいなポーズになってしまったけども。


「む……かたじけない」

「いいって。でも『きゃっ!?』って」

「言ってない!」

「え? でも……」

「言ってない!!」

「そ、そうですか……」


 なんかふとした瞬間の、三国さんの女の子っぽいところを見てしまった。

 試合も楽しかったし、お嬢様とも接触できた。ただ……なんかこの人は「お嬢さま」じゃない気がする。

 この人はまっすぐ生きて、これを貫いているからな。有栖さんと同じで、いつか仲間にできたらいいかもしれない。

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