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050 若菜と遭遇

「結衣ちゃん最近よくお出かけするわねぇ」


 今日もお嬢さまの尻尾を掴もうと、出かけようとした時にお母さんに呼び止められた。

 たしかに今まで夏休みといえば家にこもってダラダラか勉強かアニメを観るかくらいしかしてこなかった。不自然に思うのは当然かも知れない。


「そうだね。金楼に行ってから友達増えたかも」


 まぁ友達と会っているわけではないが。結果的に知り合いに会うことはまぁまぁあるけどね。

 そんな私に、お母さんはそっと一枚の紙切れを渡してきた。


「何これ。……サッカーのチケット?」

「結衣ちゃんサッカー好きだったでしょう? お母さんの職場にサポーターさんがいて、無料招待券を貰ったのよ。結衣ちゃん観に行ってきたら?」

「キックオフは今日の15時……あと3時間か」


 たしかに私はサッカーが好きだ。

 今でもテレビで日本代表の試合が放送されれば観る。ただ……放映権の高騰からか、サッカーは貧乏人が観られるものではなくなってしまった。月額3000円近く払わなければJリーグは観られない。つまり私には縁遠いものになってしまったわけだ。


「行きたいけど……会場って豊田スタジアムだよね? 名古屋から豊田って電車で往復1500円くらいかかるし……」

「それくらい出すわ。結衣ちゃんのためだもの」

「お母さん……」


 お母さんから電車賃をもらい、私はサッカー観戦の覚悟を決めた。


「ありがとう。じゃあ行ってくるね」

「うん。楽しんできてね、結衣ちゃん」


 家を飛び出し、急いで名古屋駅……の隣にある伏見駅に向かう。愛知県民にとっては当たり前だが、名古屋駅からではなく伏見駅からなら豊田市駅まで一本で行けるのだ。


 ホームで電車を待っていると少し昔のことを思い出した。

 お母さんとなんの用事だったかは忘れたけど、電車に乗って移動しようって時に人身事故で遅れが出たんだ。その時は遅刻して大変だったけど……それよりも人身事故の内容をお母さんから聞いてショックだったんだよな。

 ……いや、サッカー観戦前にしんみりしてどうする! 気合い入れていくぞ!


 豊田スタジアムに到着して、慣れない入場手続きを終えたらようやくピッチが一望できた。

 急傾斜で並べられた座席はまさに赤い壁。これが相手に与えるプレッシャーは大きいだろう。


 私の席は14エリア15列244番……めっちゃいい席だ。直射日光も当たらず、日焼けも気にしなくてよさそうだ。

 座席に座ると隣の人と少しだけ体が触れてしまった。


「あっ、すみませ……ん?」

「むっ、失敬……ん?」


 隣の人と目があって硬直した。

 黒髪ツインテールに、眼帯。この子はもしや……


「み、三国さん……?」

「慎見さんか」


 あ、あれ〜? お嬢様に出会っちゃったよ! こんなところで!

 ちょっと不思議なサッカー観戦が始まろうとしていた。

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