045 体育祭:前編
息遣いすら聴こえてくるほどの密着。
その距離は脇腹の肉が接触するほどの近さで、天月歌子という絶世の美少女の体温を生々しく感じることができる距離だった。
ただ天月さんは遠慮気味というか、こんなに密着している中でもできるだけ離れようとする。
どうしたものかと思って、天月さんの肩を掴んでこちらへ抱き寄せた。
「きゃっ……つ、慎見さん?」
「しっかり密着しないと息も合わないし勝てないよ」
「う……そうですよね」
もう本番は明日なんだけど大丈夫だろうか。ちなみにA組の二人三脚のもう一つのペアはというと……
「ちょっと! 僕に合わせてくれよ!」
「私に合わせるべきです! 協調性を見せてくださいよ!」
とまぁ吹雪さんとエレナに決定していた。あまりに息が合わなくてびっくりする。
「よし天月さん、ゆっくり進もうか。まず私の右足と天月さんの左足から前に出そう。いくよ、せーっの!」
「は、はい!」
指示通りちゃんと左足を出してくれた。その後に右・左と歩けてはいる。歩けてはいるのだが……いかんせんカクカクのロボットのような動きになってしまう。
まぁ一応進んでいるし、体育祭本番でも恥をかくようなレベルではないだろう。だが……私はお嬢様たちに負けるのが嫌だ。庶民代表として、勝てるところではしっかり勝ちたい!
二人三脚では足と心を一つにする必要がある。勝つために私たちに必要なこと……そうか! あれがあった!
「ごめんなさい……私がでしゃばってペアになりたいなんて言うからこんなことに……」
「いや、天月さんで良かったよ」
「え、えっ!? それはどういう……」
「今から作戦を伝える。耳貸してね」
私はごにょごにょと、作戦を伝えた。
そして次の日。ついに体育祭本番を迎えた。
全員参加の大縄跳びでは70回と、まぁまぁの結果で終わった。3組中2位だったしな。
続く玉入れではいまいち連携が見られず、3位に終わる。この時点で総合3位。つまり最下位であった。
そしてメインとも言える400メートルリレー。ここは有栖さん、三国さん、吹雪さん、柚子さんというA組が誇る体育会系レディースたちが出走するわけだ。
「へへっ、結衣ちゃん僕の活躍を見ててくれよな」
「う、うん。頑張って……」
第一走者の有栖さんは一気に逃げ切り、1着でバトンを三国さんへ。第二走者、三国さんはサッカー部の脚力を活かして1位をキープ。しかし2位と差は詰められていた。第三走者の吹雪さんは軽快なスタートを切った。しかし……そんな吹雪さんを差した女の子がいた。
「は、速い!」
「あの子はC組の滝沢さんです! お父様がオリンピック陸上で銀メダルを取っているんですよ!」
吹雪さんと滝沢さんの距離はかなり開き、目視8メートルくらいの差が生まれた。
最終走者、柚子さん。目が紫色に光り輝いた気がする。バトンを受け取った瞬間、その目の輝きは紫電のようにスパークした。
ランニングシューズのCMで使われるCGのように、柚子さんはとんでもない速度で走り始めた。絶対に男子より速い! あの人何者なの!?
そのまま差し返した柚子さんは大差でA組に1位をもたらした。総合順位では2位。
あとは……私たち二人三脚で勝つことができれば1位になれるってわけだ。