038 結衣ちゃん奪還作戦
「もうすぐ……もうすぐ着くから!」
全力疾走で息が切れる桃園さんと、かなり後ろを走る神村さん。それでも僕について来てくれている。
「発信機の信号はここなんだよな?」
「うん。でも…‥倉庫街?」
ふざけた真似を……!
こんなところに結衣ちゃんを置いておくなんて信じられない。絶対に犯人は1発殴ってやる!
「大丈夫。発信機には音が鳴る仕様があるから。一度鳴らしてみる」
「犯人を刺激しないか?」
「……そのための吹雪さんでしょ?」
「あ、あぁ」
桃園さんってこんな子だったっけ……有事になると性格が変わる子なのかな。
「よしっ、突入するぞ!」
僕は拳に息を吹きかけ、気合を入れた。
◆
拘束具は決して痛みを感じることはなく、ただ金目当てなのがわかる。
犯人と思われるライダースーツの女性は私を見て、話しかけてきた。
「アンタ……金楼で間違いないね?」
「……はい」
「親は何をしている? 医者か? 政治家か?」
「……スーパーのパートです……」
「……は? ふざけてると痛い目に合うよ」
「ふざけてないです。あの私……金楼なんですけど庶民の家系なんです。訳あって学校に入れてもらっただけで、お金なんて持っていないんです」
私がそう言うとライダースーツの女性は倉庫に積んであったカラーコーンを思いっきり蹴った。そして間髪入れずに電話をかける。
「おい話が違うじゃないか! 金楼なら全員金持ちなんだろう? ……間違いない? 何言ってんだい! 攫ったこいつは金持ってないぞ」
電話を切り、くそっ! と叫んでからまたカラーコーンを蹴った。カラーコーンは倉庫入り口まで飛んでいき、パンと音を立てた。……だからその時私の背中付近から何か音が鳴ったけど、犯人には聞こえていなかったみたいだ。
数秒後、ドドドドッという音と共に凄まじい剣幕で倉庫に入り込んできた少女がいる。白い髪を逆立てるレベルに怒った吹雪・ヤルクスベリさんだ。
吹雪さんは私の顔を見た瞬間、安心したような顔と怒気を込めた顔をした。その怒気は……ライダースーツを着た女性に向けられる。
「テメェか……テメェが結衣ちゃんを攫った犯人か!」
「チッ! 何でここが……!」
吹雪さんは走り出し、もうすでに腕を伸ばしていた。喧嘩っ早いところは謹慎中に直ったわけではなさそうだ。
ただライダースーツの女性も応戦して、吹雪さんに殴りかかった。
「えいっ!」
「何だ!?」
ライダースーツの女性に向けられ、カラーコーンが投げつけられた。そのせいで女性の足はもつれ、体制を崩す。
そこを見逃す吹雪さんではなかった。大きく踏み込み、体重を乗せた一撃をライダースーツの女性の顔面に叩き込んだ。
めっちゃ痛そう。犯人だけど少し同情する。動いてないし。
「ふぅ。結衣ちゃん大丈夫だったか?」
「う、うん。ちょっと拘束具が硬くて抜け出せないけど」
「参ったな……こういうの苦手なんだよなぁ。桃園さんは?」
「私も手元は不器用だよ〜」
そうか……カラーコーンを投げたのは桃園さんだったか!
「か、代わってください。たぶん私ならできると思います」
神村さんが立候補して、拘束具は一瞬で解除された。
「ずこいね、神村さん! どうしてそんなに器用なの?」
「え、えっと……それは内緒で……///」
たぶん拘束百合アンソロジーとか読んで学んだんだろうなぁ。助けられた恩があるから言わないけど。
「よし、んじゃ本部に連絡して引っ捕らえてもらうか。逃げるぞ、結衣ちゃん」
「うん! みんな……ありがとう」
修学旅行中に誘拐されるとはさすがお嬢様学校。予想外だったが……まぁ、いっか。
私の手の中に一つ、ヒントが手に入ったことだしな。