037 囚われの庶民
目が覚めるとライダースーツを着た女性が誰かと電話しているのがわかった。ここは……倉庫か何かか?
確実に私は眠らされ、誘拐された。その事実だけはわかる。金楼の制服を着ているから狙われたんだろうけど……すまんな犯人よ、ウチは出せて7万円くらいが限界だぞ。
さて、確かスマホにGPSが付いていて私が誘拐されたのは本部に伝わるんだったっけか。なら安心だ、ここで助けが来るのを待っていればいい。
犯人は何を話しているのだろうか。少し気になるな……
「あぁ、手筈通りさ。金楼はボンボンばっかりなんだろう? あぁ、スマホもジャミングしてあるから大丈夫、ここの位置までは割り出せないさ」
血の気がサッーーーと引いていくのがわかった。え? スマホジャミングされて私の位置がわからないの? つまり助けは来ないってこと? うそ……
やばい、やばいやばいやばい!
ついに震えが始まった私なのでした。
◆
「結衣ちゃんがいないんだ!」
観光客溢れる京都の真ん中で、僕は叫んだ。
電話している相手は本部。この修学旅行の安全を司る組織だ。
『慎見さんは確かにその場所にいます。スマホの位置はそこで信号を発して……』
「そんなもの国家ぐるみでやればいくらでも干渉できるだろ! とにかく結衣ちゃんはいなくなったんだ、動いてくれ!」
『……わかりました。しらみつぶしに動いてみます。慎見さんを発見しだい、教えてください。では』
面倒くさそうに電話を切る相手に腹が立つ。
このままだと結衣ちゃんが危ない。何もするなとは言われているけど……でも……!
「ごめん二人とも。僕は結衣ちゃんを探すよ」
「わ、私も探します!」
「私だって……」
「いや危険だ。君たちはここにいた方がいい」
僕がそう言っても二人は断固拒否した。……この二人も僕と同じで、結衣ちゃんに少しでも救われたのかなぁ。
「……わかったよ。みんなで探そう。心当たりは……あるわけないよね」
「……そうですよね……」
「…………」
くっ……時間だけが過ぎていく! とにかく近辺をすべて回ってみるか?
「あ、あの!」
焦る僕たちに、桃園さんが声をかけた。
「じ、実は結衣ちゃんの位置、わかるかも……」
「え!? な、なんで……」
僕が尋ねると桃園さんは自分のスマホを取り出した。そしてゆっくりと、誰かに電話をかけている。
「うん、私。えっと……結衣ちゃんの位置出てる? オーケーありがとう」
桃園さんの雰囲気がいつもと少し違うことに戸惑うけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「結衣ちゃんの位置わかったよ。場所は……ここから2km」
「よしっ、走れば10分でいけるな」
「そ、それは吹雪さんだけかと……」
「ともかく全力でいくよ! あっ、でも一つ。何で桃園さんは結衣ちゃんの位置がわかるの?」
「……私が取り付けた独自の発信機があるから。行こう!」
……あーあ、結衣ちゃんの争奪戦、あんまり楽に勝てそうにないなぁ。
僕は肩を少し落としながら走る桃園さんを追った。