036 旅にトラブル
バスは高速道路に乗り、「おかしいだろ!」って突っ込みたくなるほど早く走行していた。
よく見ると最速貸切レーンというのがあるらしく、金楼のバス以外は走っていないようだ。
あっっという間に京都に到着し、バスレクみたいな風情あるものもなく、宿泊学習がスタートした。
「それじゃあここから自由行動だから。各員に渡してあるスマートフォンにはGPSが付いていて本部で確認できる。また、万一の際には自動で感知して本部に通報が入るから安心してくれていい。それじゃあ行ってこい」
えっ!? このスマホそんな機能あるの? こわ。
まぁでもお嬢様たちが集う学校だ、誘拐して身代金を欲する奴らもいるだろう。念には念を……ってやつか。私には関係ないことだけど。
行ってこい、と先生に告げられたのにお嬢様たちは優雅にどこに行くかの計画を立てていた。
普通の高校生なら自由行動になった瞬間にダッシュしそうなものだが、落ち着きが違う。というか京都が初めてなの私だけなんじゃね?
「よ〜っし、行くか結衣ちゃん。まずは昼食でいいか?」
「う、うん。お腹空いたしね」
時刻は11時半。まぁ昼時だ。
「どこに行く〜? 懐石とかだと時間かかっちゃうよね?」
「そ、それならお蕎麦はどうでしょう? 早くて美味しいと思います」
「いいね。パンチは足りないけど、まぁ大丈夫でしょ」
蕎麦か。よかった……庶民的な飯になりそうだ。
……と思ったらなんか超高級な料亭みたいなところに連れていかれ、蕎麦を単品で頼むという恥ずかしいムーブをすることになった。
お嬢様たちは特に気にする様子もなく蕎麦を上品に食べている。マイペースというか、なんというか……。
一抹の恥ずかしさを抱えたまま会計を済ませて外に出る。……かけ蕎麦一杯で1980円って。インフレか? インフレってやつか?
「よし、腹ごしらえも終わったところで寺にでも行くか」
「うん!」
吹雪さんが少し駆け足になり、神村さんが追いかけた。さすが広い神社を掃き掃除している巫女さんというべきか、体力がある。
私と桃園さんは走ることなく、ゆっくりついていくことにした。すると当然のように素の桃がひょっこりと現れる。
「はぁ、マイペースな奴」
「あはは……」
この切り替わる瞬間だけはまだ慣れそうにない。
「……慎見さんは楽しい? 身分差のある学校に通ってて」
「え? まぁ戸惑いはあるけど……うん、楽しいかな」
「へー。考えられない」
「何で聞いたのさ……」
「ふん」
やっぱりこっちの桃園さんの方が話しやすいな。
……あっ、トイレ行きたいかも。蕎麦のつゆを飲みすぎたかな。
「ごめん、お手洗い行ってくるから先行ってて」
「ん、了解。はぁ、また猫被りか」
ため息を吐きながら一瞬でニッコニコ笑顔になった桃園さん。凄まじい変身力。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。
トイレはお世辞にも綺麗と呼べるものではなく、少し古かった。まぁ風情があるといえばいいか。
トイレから出るとライダースーツを着た女性が立っていた。スタイルがいいので目につく。
私は桃園さんを追おうと、走り出そうとしたその瞬間、口元がハンカチで覆われた。
「ふがっ!?」
突然のことにパニックになる私。遠のく意識と桃園さん。
やばい……これ……まさか…………ゆう、か……い……。