032 優勝決定!
「さぁ、皆さん選びましたね?」
エレナがお嬢様たちを集合させ、私に着せるという服を持ち寄ったのだという。
試着室がたくさん並ぶコーナーに移動し、私はこれから着せ替え人形になるようだ。……基本的人権どこ?
「さぁ、まずは優勝候補筆頭の私からいかせていただきます!」
エレナは自信満々に鼻息荒く服を私に手渡した。まぁいっか、と思いながら試着してみる。
ちょっとカーテンを開けるのは恥ずかしいけれど、よくよく考えてみたら私の服を見る様子から「お嬢さま」のヒントを得られるかもしれない。このイベントをスルーすることはできなさそうだ。
「はい! 着てみたよ」
「はわわっ〜! 可愛いですぅ〜〜」
エレナが選んだのは予想通り白くてふわふわした服。色白な私にとっては全体的に白すぎる気もするけど、まぁこういうのは新しい扉としてはアリだろう。もちろん普段着にする勇気はないが。
エレナが大興奮のところ悪いが、しっかり評価は下さないとな。
「服自体は可愛い。でも私に似合う服って意味ではダメだと思うよ」
「そんなことはありません。結衣さんはどんな服でも似合います」
「エレナみたいな美少女に言われると嫌味にしか聞こえない。とにかく、暫定一位ではあるけど最下位も覚悟してください」
「えぇ〜! そんなぁ〜……」
しょんぼりとしてしまったエレナ。そんなエレナを置いて、次は誰にするかのジャンケンが始まり、海咲さん、吹雪さん、桃園さんの順番に決まった。
「じゃああたしの服はこれね。よろしく!」
「うわっ……やっぱり肩出てるし。脇も……」
これは大胆なこって。
でもまぁ着るしかない……か。と思って着用し、思い切ってカーテンを開けると一斉にお嬢様方はスマホのシャッターを切り始めた。
「ちょ、何撮って……誰だ連写しているやつ!」
無言で連写されまくって怖い。当然のようにすぐカーテンを閉め、海咲さんに暫定ドベになったことを伝えた。
「じゃあ次は僕だな。これだよ」
「うん、じゃあ着てくるね」
吹雪さんのはたぶん露出とかの面では大丈夫だろう。安心安全だ。
とはいえ深緑……う〜ん……女子的にはどうなんだろう。最近流行りのワー○マン系女子っぽさは少しあるかも。
ポジティブに考え、カーテンを開けるとみんなの反応は結構良かった。
「うんうん、やっぱりいいじゃん。僕、意外とセンスあるだろ?」
「そうだね。動きやすいし、ちょっと作業着感は出るけど可愛いかも」
「じゃあ最後は私だね☆ 可愛いの選んできたよ〜!」
急にキャラ付けした桃園さんに触れたからビックリしてしまった。いつか口を滑らせて彼女の本性を打ち明けそうな自分が怖い。
桃園さんの選んだ店はラブリーな感じだった。私に似合うだろうかと思って着てみると……
「こ、これどうかな?」
結構自信満々にカーテンを開けてみた。
桃園さんが選んだ服は白のパンツドレスに紺色の七部丈ジャケット。
落ち着きの中に、私にはない華やかさもあって個人的にはお気に入りだ。
「そ、そんな……私よりセンスが良いだなんて……」
「いいじゃんいいじゃん! 似合ってるよ慎見さん!」
「なるほどな〜、結衣ちゃんの良さを活かしつつ新しい扉も与えた感じか。それが正解だったか〜」
もはや誰が一位か伝える必要はないようだ。
えっとこの服は……ジャケットが3600円でパンツドレスが5000円の展示品限り50%offで2500円。計6100円か……くぅ、高い!
「結衣ちゃん、それ買ってあるからプレゼントしてあげる!」
「えっ!? でもそんなの……」
「気にしないで。このイベントすっごく楽しめたから☆」
「そ、そっか……」
そんなやり取りをしている間に、桃園さんから個人チャットが来た。
『6100円。5000円持ってるんでしょ? あとで渡して。あとの1100円分は口止め料ね』
な、なるほど……。まぁそういうことなら……いっか。お母さんからもらったお金も使えたことだし。
なんでここにみんないるのか野暮なことを聞くのはやめだ。
とにかく今日、私は初めて若者として買い物を楽しめた気がする。
人として、成長したことを感じたショッピングになったのでした。