029 エンカウント
「さぁさぁ結衣さん、地下街は抜けてアパレルへ行きませんか?」
「うん、いいよ」
地下から1Fへ上がると、まずは腕時計のブランドがずらりと並んでいた。
どれどれと遠目で見てみると、お値段なんと150万円! おいおい、誰が買うんだよあんなの。
「そうでしたメイドさん、父のお誕生日プレゼントにあの時計とその時計、買っておいてください」
「かしこまりました」
……ここにいたわ。
「お父さんの誕生日プレゼントに高級時計を買うんだ」
「はい。父は時計には無頓着でして……。なのでこうした機会に私から買うことにしているんです」
ってことは毎年150万円クラスの腕時計を新しくもらっているってことか! 凄まじいな金持ちってのは。
この目に毒な値段が並ぶ1Fは早々に抜け出したいとエレナに伝え、庶民ひしめく4Fアパレルフロアにたどり着いた。ここなら値札も2080円など、決して手が出ないわけではない数字が並んでいるので安心だ。
「さ〜て、どちらのお店に行きましょうか結衣さ……」
「あーー! 本郷さんと慎見さんじゃん!奇遇だね〜!」
鼓膜に響く、元気な声。
その声の主は振り返らなくてもわかる。出席番号2番の釣りガール、海咲マリンさんだ。
水色の髪と、白色のカーディガン。全体的に明るめの色で来た海咲さんはやはり元気っ娘であることを容易に想像させる。
「き、奇遇ですね〜海咲さん。ではごきげんよう……」
「ちょっと待ってよ〜! 休日にショッピングセンターでたまたま会えたんだから一緒に回ろうよー!」
避けようとするエレナの腕を掴んで、海咲さんは私たちと同行したいと主張した。
私としてはまったく構わないんだけど、エレナはまぁいつも通りほっぺを膨らませている感じだ。
じゃあ海咲さんと合流できたから気を取り直して行こうかというタイミングで、今度は2人の少女がこちらに近づいてきた。
「あ〜☆ エレナちゃんにマリンちゃんに結衣ちゃんだ〜♪」
げっ、と思った。なぜなら近づいてきた少女、桃園藍は外面はいいものの内面は黒いものを抱えた裏表系女子。現に私の秘密、言ってねぇだろうな? みたいな感じで私の方をずっと見ているし。
そしてもう1人は……
「よー結衣ちゃん。偶然だねぇ」
ショッピングセンターに、ジャージ!
もう一度言おう。
ショッピングセンターに、ジャージ! で現れた吹雪・ヤルクスベリさんだ。
偶然にしては出来過ぎな気がするけど……まぁいっか。
ここから先は5人で回ることになるようです。エレナの顔が……怖いのです。