028 初めてのマカロン
エレナの手配した黒服が運転する高級車に揺られ、やがてエレナの屋敷前に到着した。
当然のようにおめかししているエレナは黒のワンピースを着用している。一見地雷風に見えなくもないが、エレナの上品さや髪艶、そしてシースルー製で白い肌が透けているため、さほど気になるほどではなかった。
「結衣さん! 今日は私服で来てくださったんですね!」
「あー……まぁショッピングセンターに金楼制服で行くってのはね」
金楼の制服=金持ち。金持ち=金払いがいい。つまりたくさんお金を使わなきゃダメだというプレッシャーにさらされることになる。だったらまだ白Tシャツに黒のスキニーパンツで来た方がマシだった。
「私服姿の結衣さん、素敵ですよ〜」
「エレナに言われてもね。それ結構気合入った服でしょ。よく似合っているし」
「そ、そうでしょうか……えへへ」
実際、隣にいるのが少し恥ずかしいくらいには似合っているし着こなしている。私には到底不可能な芸当だ。
今日もウェルカムドリンクをいただき、車に揺られること十数分。
ついに目的地となる新たなショッピングセンター、『ロイヤルモール』に到着した。
当然のように大混雑しており、いったいどこに駐車するんだろうと思ったけど、なぜかエレナの車は関係者駐車場に停めてしまった。
「え? ここって関係者以外駐車禁止なんじゃ……」
「大丈夫ですよ結衣さん。このショッピングセンターの株の一部を本郷家が有しているんです。つまり、関係者ということなんです」
「そう。もう驚かないよ」
いちいち驚いていたら過労で倒れるわ。
車から降りてショッピングセンターの地下入り口から賑わう地下1F、食のエリアに到達した。
ここには東京などで人気を博したデパ地下の食べ物が並んでいるようで、なんだかとってもいい匂いがする。
「美味しそうですね〜、結衣さんはどれが気になりますか?」
「う〜ん……やっぱり肉、かな。色気ない?」
「そんなことありません! お肉にかぶりつく結衣さんもいいと思います!」
「そっか。じゃあエレナは?」
「私はそうですね〜……あのお店の可愛いマカロンでしょうか」
マカロン……? 新しいゆるキャラか何かか? もしくはフランスの大統領……。
「結衣さーーん? もしかしてマカロン、ご存知ありませんでしたか?」
「あっ……うん。知らない」
「ではお一つ召し上がってください。今メイドに買わせましたから」
「え……悪いよ、お金払ってないのに」
「いいんです。今日は私が無理に連れ出したのですから」
う〜む……と思いつつ、鮮やかなピンク色をしたお菓子に目が止まってしまった。
これがマカロンか。たしかにめっちゃ可愛い。女子が集まるのも納得だ。
まぁご好意には甘えてみるか。
「じゃあいただきます……あ、美味しい!」
「ですよね〜! 甘くてふわふわホロホロで、マカロンにしかない美味しさがありますよね」
「いいねこれ。お土産に買っていこうかな。一つでいくらするの? 小さいし、30円くらい?」
「え? 一つ320円ですよ」
……なるほど、美味いわけだ。近所のどら焼きとはわけが違うってね。