002 入学式
頂点が白んだ中央アルプスが見守る私立金楼学園高校は、繰り返すが超お嬢さま学校だ。
正門にたった今、右を見ても左を見ても育ちがいいと分かる少女たちのみが歩いている。
この楽園に忍び寄ろうとする男でもいたものなら、即座に屈強な女性警備員に取り押さえられるだろう。
「ここが……金楼」
もちろんパンフレットで見たことはあった。
しかし、足を踏み入れるのは初めてなのだ。
受験はどうしたと思われるかもだけど、私はテスト方式ではなく振込方式、つまり金をどれだけ積んだかで合否が決まるという資本主義を体現したかのようなシステムで入学した。
私にそこまで金を使えるような「お嬢さま」とは一体……
「やはり美しい校舎ですね。赤煉瓦の屋根とシルクのように美しい白い壁。慎見結衣さんもそう思われませんか?」
「そ、そうだね。あとフルネームじゃなくていいよ」
「本当ですか? それなら……結衣さん」
あ、下の名前なんだ。
「ふふ、結衣さーん」
い、いきなり馴れ馴れしいなコイツ……やっぱり私に惚れていやがる!?
いや待て、この思考回路はよくないかもしれない。これから金楼で出会う生徒全てに「あ、コイツ私に惚れてる?」って思わなきゃいけないとなると、ただのナルシストだ。それはまずい。
「本郷さん、呼び過ぎは恥ずかしいからやめて……」
「む、結衣さんこそ下の名前で呼んでくださいよー。エレナって呼んでくださいよー」
くっ……さすが(?)お嬢様! わがままな奴だ!
まぁでも下の名前で呼ぶくらいで満足するのなら、それでいいか。もし過度に照れたりしたらそれはそれでヒントになる。
「分かったよエレナ。これからよろしく」
「はい!」
爽やかな笑顔……か。あまりヒントにはならなかったな。
正門を越えた先に人だかりができていた。どうやら新入生を歓迎するために胸元に花を付けているようだ。なんて言ったっけあれ……えーっと……
「美しいコサージュですね」
「そ、そうだね」
やはりそういう美し関連の知識はお嬢様として当然持っているわけか。中学でも盗み聞きしていた時は紅茶がどうのとか、バイオリンがどうのとか言ってたもんな。
「入学おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
おそらく先輩と思われる人からコサージュを付けてもらった。桃色の花は紺のブレザーによく映える。しかもちょっといい匂いする。これ……生花か!? 金かけてんなぁ。
そこからの展開は早く、これまた綺麗な体育館で入学式が執り行われた。女理事長が「清く正しく美しく」を何回言ったかを数えるうちに入学式は終わり、ついにクラス発表の時を迎えた。
「えっと私の名前は……あった。1-A。出席番号6番」
「結衣さんもA組なのですか? 私もです!」
「お、お〜、よろしくエレナ。……7番か」
ますます怪しくなってきたぞ。ただ「お嬢さま」はチキン。クラスを操作できる権利を持っていたとして、私と同じクラスなんて選ぶだろうか。
しかし金楼は3年間ずっと同じクラスなのだ。だからここで同じクラスになる機会を失えば、もう2度と同じクラスになることはできなくなる。
仕掛けている可能性は高いと考えて良さそうだな。
私は何かに探りを入れる探偵のような気持ちを持って、1-A教室へと踏み入れた。