027 遊びの誘い
早いもので入学から1ヶ月が経ち、ゴールデンウィーク休みに突入した。
特に何をする予定があるわけでもないのだが、私の直感が簡単に休ませてくれる期間にはならないぞと告げている。
私は部屋のカーテンを小さくめくり、外にいる黒服たちを眺めた。数は……5か、多いな。
そのタイミングでちょうど電話が鳴った。確実に私が家にいるかどうかを確かめての行動だろう。
「……もしもし?」
『慎見さんのお宅でお間違いないですか?』
声の主は聞き間違うはずもなくエレナだ。
「うん。エレナは何で電話番号を知っているのかな?」
『ふふ、個人情報とはさも簡単に流れ出てしまうものですね』
「答えになってないし怖いし。なんなんだ」
『今日は結衣さんを遊びにお誘いしようと思いお電話しました。大型ショッピングセンターが新しくオープンされたのはご存知ですか?』
「いや知らない。縁のない話だと思っていたし」
『一緒に行きませんか? きっと楽しいと思いますよ!』
ショッピングセンターか……まぁそりゃ楽しいだろうけど、あいにくウチは貧乏なんでね。金がないからと断るか。
「あー……お誘いは嬉しいんだけどウチってお金ないからさ、他の子を誘ってあげたら?」
私が受話器越しにそう伝えると、スッと視界の横で紙幣が突き出されたのに気がついた。
確認すると紙幣を渡した主はお母さんだった。5千円札を少し震える手で私に向けている。
「エレナ! ちょ、ちょっと待っててね」
慌てて受話器の集音部を手で塞ぐ。
「お母さん何この5千円は……」
「……今まで結衣ちゃんには何も買ってあげられなかった。何も楽しいことをさせてあげられなかった。だから高校の友達ができたら遊べるように、少しだけ貯めていたの」
「でも大切なお金だよ! ちゃんと家計にしないと……」
「大丈夫。大丈夫よ結衣ちゃん。学費や経費はどこからかが出してくれているし、昔みたいに極貧生活なわけじゃないわ。それより結衣ちゃんが友達と仲良く楽しむ方が大切なの」
「お母さん……うん、ありがとう」
照れくさいながらちゃんと感謝の意を述べられた。再び受話器を取り、エレナに言葉を返した。
「エレナ! やっぱり行く。ショッピングセンター行ってみたい!」
『はい♪ その言葉を待っていました。では迎えの車はすでに結衣さんのお家前に手配しておりますので、そちらにお乗りください』
「……うん。まぁありがとうだけど、次から監視みたいなことしたら怒るからね」
『そ、そんなぁ〜!』
嘆くエレナの声を最後まで聞くことなく受話器を置いた。
お母さんにもう一度ありがとうと伝え、私服の中で1番マシなものを着て玄関から飛び出した。
この時の私はうかれていて気がつかなかった。黒服はエレナのお付きの人だけではないのだと。
そしてその黒服たちは一斉に電話をかけ始めたことを。
ゴールデンウィーク、お嬢様集うショッピングセンター編、開幕!