026 そのままの桃
いつもキラッキラした笑顔を振り撒き、クラスの誰とでも分け隔てなく明るく会話をするA組の太陽こと桃園藍さん。
その本性は……毒吐き娘でした。
校舎裏、私と桃園さんはばっちりと目が合っている。
てっきりすぐに怒られたり手を掴まれるかと思ったけど、桃園さんは驚きの感情の方が強いようだった。
「……慎見さん、見たよね」
「な、何をかな〜?」
「……とぼけるならそれでいいけど、私からの疑念はまったく晴れないから」
「うっ……」
結衣ちゃんと呼んでくれた彼女、キラッキラ笑顔の彼女はどこへやら。今は眉間にシワを寄せ、私のことをマイルドな顔で睨んでいる。そこには困惑の顔も見てとれた。
「慎見さんかぁ。ま、バレちゃったなら仕方ないよね」
「く、口封じでもする気?」
「そうしたいけど、できるものでもないでしょ?」
死んだ目で諦めたことを告げる桃園さん。
「というか桃園さんはどうして猫をかぶってまでみんなと仲良くしようとしていたの? 何か目的でも……」
「詮索しないでくれる? 人は……人は誰かといないと生きていけない。そのためにあのキャラ作りは有効ってだけだから」
「そ、そうなんだ」
「だから、秘密にしていてくれるよね? 結衣ちゃん☆」
「うぉ……」
急にキャラに入ったから驚いてしまった。女優かよ……。
「慎見さんはどっちが好き? この私と、この私〜!」
「……どっちが好きとかないんじゃないかな。桃園さんが楽な方で接してくれたらいいよ。猫かぶる方が楽ならそれで、素のが楽なら素で。あとは桃園さんの自由だと思う。だって……せっかく友達になれても疲れちゃったらもったいないでしょ?」
「…………」
黙って俯いてしまった桃園さん。少し正論すぎたかな? と思ってしまう。正論は時として、相手の心を傷つける。
「ま、それなら慎見さんには素のが楽だわ」
「そ、そう。それならまぁそれでいいんだけどね」
「それに……素の私を……」
「ん?」
「何でもないっ! じゃあ教室戻るから! 教室ではいつも通り演じてよね!」
「はいはい……」
はぁ、本当にひと癖もふた癖もある子が集まっているクラスだなぁ。
桃園さんから情報を引き出せなかったし……まぁ素を知った以上、少しくらいは距離は縮まったと思うし、いつかまた接触すればいいか。
それにしても裏表ね……。
昔、裏表の激しい女子がいて怖かった記憶があるわ。その時もこんな感じのやりとりをした気がするけど、あんまり覚えてないなぁ。
自分のことは棚にあげ、裏表は怖いなと思う今日この頃であった。