025 可愛い桃には毒がある
私にアリスさんという強力な理解者ができた。のはいいんだけど、残念ながら「お嬢さま」の尻尾は掴めずじまいだ。
正直言ってモヤモヤしてきた。少しくらいヒントをよこせよ、そう思うのは仕方のないことなのではないだろうか。
今日も学校に向かう途中でエレナに拾われ、車で快適に登校できた。もういっそのこと直接「エレナって私のこと好きなお嬢さま?」って聞いてやろうかと思ったけど、なんとか理性がそれを踏みとどまらせた。
教室に入りホームルームが始まっても10ある席のうちの1つには少女の姿はない。私を馬鹿にした先輩を殴った吹雪さんの席だ。
はっきり言って彼女もめちゃくちゃ怪しい。いくら私が悩みを解決したからって、手を出すほど怒ってくれるだろうか。
そんな誰もいない吹雪さんの席の前に座る肩まで伸びたピンク髪の桃園藍さんは、今日も私の右隣の席に座る三国若菜さんと談笑していた。
3週間見ていた感じ、桃園さんは俗に言う陽キャだ。席の関係上、三国さんと話す機会が多いけど基本的には誰にでも構わず話しかけにいく。話される側も気持ちいい子だから、悪気はしない。というか来てくれるのを待っている子もいるだろう。
人見知りな神村巫女さんですら、桃園さんとは普通に話ができている。きっと桃園さんに引っ張られているのだろう。
「桃園さんか……彼女ならたくさんの子の情報を握っていそうだなぁ」
「私がどうかした〜?」
「!?」
びっっっくりした……。
桃園さんはいつの間にか私の席にまで来ていた。よく挨拶をしてくれるし、今日もそれだろう。とはいえタイミングのせいで心臓が飛び跳ねてしまった。
しまったな……何か言わないと怪しまれるぞ、これ。
「えっと……桃園さんってたくさんの人と話しているなぁって」
「うん☆ 私、みんなとお話しするの大好きなんだー!」
キラッキラした笑顔で答えてくれた桃園さん。こういう裏表のなさそうな子は誰にでも好かれそうだ。
「藍氏よ、そろそろ授業であるぞ」
「あ、はーい☆。じゃあまたね、結衣ちゃん」
「う、うん……」
桃園さんは三国さんに注意されて席についた。結衣ちゃん呼びか……なんか吹雪さんが聞いたらまた面倒なことになる気がする。現在進行形で後ろから殺気じみたものを感じるし。
さて、桃園さんって本当に色んな子と話しているんだよな。つまり、この学園の生徒の情報を大量に持っているということ。
……はっきり言って、その情報をいただきたい。恋バナとかもしているかもしれないし、その拍子にぽろっと私の話題が出てもおかしくはない。
昼。私は桃園さんに接触しようと席を立った。
しかし振り返ると桃園さんはお弁当を持って教室から出て行ってしまった。学食じゃないなんて珍しいな……。
「ねぇ三国さん、桃園さんっていつも誰かとお昼、食べてるの?」
「そういえば知らぬな。どうかしたであるか?」
「い、いやなんでもないけど……」
三国さんと食べているわけではないのか。あと三国さんの話し方、まだ慣れないなぁ……。
とりあえず桃園さんを追おう。お昼は……まぁまた自販機で買うか。
急いで1500円のメロンパンを買い、桃園さんの目を引く桃色髪を追う。
たどり着いたのは……校舎裏? やば、もしかして告白とかで呼び出されていたのかな? だとしたら引き返したほうがいいかも?
そう思い、引き返そうとすると大きなため息が耳をつんざいた。
「はぁ〜〜〜〜〜、ウッザ……」
耳を疑った。
え? 今の桃園さんの声?
「何だよ三国のやつ、変な喋り方しやがって。合わせるこっちの身にもなれってんだ。本郷のやつはいちいち笑顔が怖いしよぉ。ったく、ふざけた学校だな」
え? なに? こわいこわい!
確実に見てはいけないものを見た気がする。早くここから逃げないと!
逃げようとした私は焦りからか、小石に躓き転倒。メロンパンの袋が盛大に音を立ててしまった。
「誰!? ……つ、慎見さん!?」
「あ、あはは……」
こりゃやべぇ。まじやべぇ。
人の裏の顔を見てしまった。
これ……あかんやつや。