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024 理解者ゲット

 耳をすませば部活動に勤しむ学生たちの爽やかな声が聞こえてくる。そんな春の教室に、私は御陵院有栖さんと2人きりで座談会を開催することになってしまった。

 向かいに座る有栖さんはやはり別格というか、他の生徒とは別種のオーラを感じる。まるで偉大な蹴球スター、ライオネル・レッシを目の前にしているかのようだ。


「さて、聞かせてもらおうかしら? あなたがなぜ金楼学園に入学できたのか。そしてその手引きをした人間の目的を……ね」


 閉じられた瞳。やがて長いまつ毛が持ち上がり深紅の宝石が露わになった。

 その眼力には畏敬の念すら覚える。この人の言うことには従うしかない、そう直感が告げていた。


「実はこの学園に通うという人が私に惚れてしまったらしくて。それでお金を全額払って私を金楼に入れてくれたんです。学費だけでなく備品も負担するからと。それだけじゃなく、その人の名前を言い当てたら10億円を私にいただけるみたいで。断る理由もなく……といった感じです」

「そういうことだったのね。色恋沙汰だったとは思ってもいなかった……何かそうね、あなたが政治家のスキャンダルを握ったとか、そういう方面の話を覚悟していたのだけれど」

「あはは……あんまり緊張感のない話で申し訳ないです」


 私が正直にすべてを話すと、有栖さんはニッと笑ってみせた。


「それで? あなたは何か『その人』のことについて情報を掴んでいるのかしら?」

「それがさっぱりで……目星をつけようと思ってもどうも目のつけどころが悪いのかヒントにならず……」

「そう。わたくしには今の話だけで数十名かには絞れましたわよ?」

「え、ええっ!?」


 い、今ので? まったくヒントも何も与えていないよ? ハッタリかな……。


「ち、ちなみに教えていただいても?」

「……ダメよ。教えることはできないわ」

「なぜですか? は、ハッタリだからですか?」


 ゴトン! と掃除道具入れが音を立てた。何だろうと思って見に行こうとすると、有栖さんが咳払いをして私の動きを止めた。


「ハッタリなんかではないわ。でもね結衣さん、『その人』はきっと相当な覚悟を持ってあなたをこの学園に入れたはずよ。お金持ちに対して偏見をお持ちかもしれないけれど、10億円と金楼の学費は決して安いものではないわ」

「……」

「そして何より……『その人』は恐らく結衣さん自身の力で言い当てて欲しいはず。わたくしの力が介入したら恋慕されている方に失礼ですわ」


 ま、まぁ確かにそうかも……。

 高いお金を払って私の分の学費を払ってくれているわけだし、せめてその名を当てるくらいは私自身の力でやりとげなきゃ失礼っていうのは納得できる。


「わたくしの知りたいことは知れました。推理までは教えられませんが……そうね、何か一つ情報を与えることくらいはしてもよいかもしれませんわね」

「情報ですか……じゃあ、私はエレナ……本郷エレナが私に惚れた人なんじゃないかと思ってます。有栖さん的にそれはどうですか?」

「そうね……本郷家は名家。教養もしっかりされているし何一つ問題ない家ですわ。そしてあなたに惚れているとまでは言わなくとも、好意は抱いているのは明白ですわね」

「だったら……!」

「だからと言って、彼女が想いを伝えられない方に映りますの? そこをしっかりと考えるべきですわね」

「……そうですね。しっかり向き合ってみたいと思います」


 正直言って、そんなに進展はない。

 でも自分の置かれている状況を把握してくれる、いわば理解者のような人がクラスに1人できた。それは本当に、心強いことだ。




 ◆




 慎見結衣さんを帰して数秒後、掃除道具入れから黒髪の少女が出てくる。わたくしの従者、柚子ですわ。


「ご苦労さま。話は聞いていたわね?」

「はい。パッと思いつく名家といえば神舌家やヤルクスベリファミリー、本郷家……などと考えるのが普通でしょうか」

「そうね。家の格で言えば絞れるわよね」

「……でもそれだけではないと?」

「えぇ。『言い当てられたら10億円』。たとえ言い当てられたとしても『違う』と言い張れば嘘も誠になるものですわよね? 証明のしようが無いのだから」

「……まさか!」

「本当に面白いゲームを思いつくものですわね。わたくしですら誰なのか検討もつかない……ふふ、対象者が結衣さんではなく、わたくしであればいいのに」


 わたくしは笑いが止まらなかった。このような謎解き、特にあまりに難しいものは嫌いでは無いから。

 柚子は真顔のまま、次の指令を待っている。


「……今後、小日向美麗のように結衣さんを退学に追い込もうとする者も出てくるかもしれないわね」

「金楼ブランドを護るためですね」

「えぇ。でも……」

「アリス様の管理されるクラスから、退学者を出すわけにはいかない、ですよね?」

「完ぺきよ、柚子」


 さぁ始めましょうか。わたくしによるA組パーフェクト攻略を。

明日は2話更新します!

025→12時ごろ 026→18時ごろ

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