023 謝罪より
「まぁ座りなよ。オレンジジュースでいいか?」
「う、うん。ありがとう」
吹雪さんは冷蔵庫を開け、見たことのない外国パッケージのオレンジジュースを取り出してコップに注いだ。
数秒後、吹雪さんは私の目の前にジュースを置いて、机の向かい側に座る。
「さてと、先輩をぶん殴って謹慎食らった不良の僕に、結衣ちゃんは何の用かな?」
「いや、その……謝りたいなって思って。私のせいで吹雪さんが謹慎になっちゃったから」
「あはははっ、結衣ちゃんのせいじゃないだろ? 喧嘩っ早くて手も早い僕のせいだよ」
吹雪さんは笑いながらオレンジジュースを半分ほど飲んだ。あまり謹慎自体のことは気にしていないみたいだ。
「でも原因を作ったのは私だし……」
「ん〜〜、なら『ごめんなさい』よりもっと聞きたい言葉があるかな〜」
「えっ? ……あっ! 『ありがとう』?」
「そう! それが聞ければ満足だよ」
謝罪の言葉より感謝の言葉か。やっぱり吹雪さん……イケ女だ!
「まぁ謹慎になったものは仕方がないよ。僕としては開き直って休みが増えたって思ってるけど」
「逞しいね」
「ははは、まぁね。それより結衣ちゃんの方にまた危害を加えようとする奴はいなかったか? 側で護れないのが唯一の不安でさ」
「大丈夫だけど……吹雪さんはどうして私を護ってくれるの?」
「そりゃあ…………結衣ちゃんはあの学園で過ごしていくうえで、大切なことを教えてくれた恩人だからな。もしあの日、屋上で結衣ちゃんに出会えていなかったらまだ僕は屋上で一人ぼっちだったよ」
ははは、と笑いながら吹雪さんはオレンジジュースを飲み干した。
金楼学園で過ごしていくうえで大切なことか……なんかそこだけ切り取られると本当にすごいことを教えたみたいになるけど、別にお嬢様たちにだって悩みはあるって当たり前のことを教えただけなんだけどなぁ。
でもまぁ些細なことで人を救えることもある、か。
「そういえば吹雪さん、すっごく強いんだね。何か習ってたの?」
「いいや。僕の戦闘術はアニメや映画の見様見真似で得たものだよ。といっても、ちゃんと毎日筋トレもしているしイメトレも欠かさないから結構やれると思うけどな。腹筋触るか?」
「い、いや結構です……」
ほれほれとダボダボのTシャツの上から触れ〜と言わんばかりにお腹を突き出してくる。っていうか下、履いてないんかい! また吹雪さんの白パンツを見てしまった……。
「じゃあ私はそろそろ帰るね」
「えー。もっとゆっくりしていきなよ」
「そうしたいけど、お母さん心配するだろうから」
「そっかー。結衣ちゃんと2人きりの空間、楽しかったなぁ。教室だと本郷さんがすごい形相で睨んでくるし」
エレナ……やっぱりそんな顔しているんだ。
「じゃ、じゃあ本当にありがとう。謹慎が解けたらまたよろしくね」
「あぁ。今度も護ってあげるよ」
「い、いや! そういう意味のよろしくじゃなくて……」
「あはははっ、分かっているよ。じゃあな、結衣ちゃん」
う〜……調子狂うなぁ、もう。
◆
結衣ちゃんは夕日に向かって歩き出し、もう姿が見えなくなってしまった。
どうして私を護ってくれたんですか? か。
……結衣ちゃんは知らないんだろうなぁ。
結衣ちゃんの、何気ない言動に多くの人が救われていることを。
そしてそれは……過去の僕も例外ではないということを。
今回活躍した吹雪のイラストを描いていただきました!
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