020 金楼の資格
私たちが金楼学園に入学して、3週間が経った。
もう1-Aではほとんどの子と話をしており、顔と名前が一致している。クラスの雰囲気も良好だ。
ちなみにクラス長は御陵院有栖さんが立候補してそのまま当選した。威厳ある人だから、ぴったりだと思う。
私としては相変わらず「お嬢さま」の尻尾すら掴めていないから焦ってはいるけど、どうしたものかと頭を抱えることしかできない。
そういえば上級生の可能性だってあるんだよなぁ。まだ一切の関わりもないけど。
「結衣ちゃん、消しゴム2個持ってない〜? 僕忘れちゃってさ」
「あぁ、あるよ」
「サンキュー。助かるよ」
吹雪さんとの何気ないやりとりをしている中、バン! と教室のドアが勢いよく開けられた。
ズカズカと入ってきたのは青いリボンをつけた人。つまり一個上の先輩だ。
金髪の、まさかの縦巻きロール。アニメで見るようなお嬢様がそのまま目の前にいる事実に驚愕を隠せない。
その先輩はキョロキョロと教室を見渡して、そして私の顔を見て泳ぐ視線を止めた。
「あなたですわねっ!?」
「……はい?」
なんだかよくわからないままに叫ばれ、距離を詰められた私。すぐにドンっ! と机を叩かれ、確実に威嚇されているのだと分かった。
「艶のない髪、品のないオーラ、病的に白い肌。あなたが庶民で間違い無いですわよねっ!」
「あ……まぁ、はい。庶民です」
先輩だから敬語で話すけど、ぶっちゃけ殴りたいくらいに失礼だなと思った。ズケズケと距離を詰めて威嚇して、挙げ句の果てに庶民と罵倒。3アウト。チェンジで。
「申し遅れましたわね。わたくし、2年の小日向美麗と申しますわっ!」
髪をファサってかきあげて、シャンプーの匂いを散らしながら自己紹介してきた小日向先輩。
「慎見結衣です。えっと……何の御用ですか?」
「単刀直入に言いますわね。退学なさっていただける?」
「……はい?」
困惑する私を他所に、小日向先輩は腕を組んでつらつらと言葉を紡ぐ。
「はっきりと言いますわ。あなた……金楼学園に相応しくないと自覚なされた方がよろしいですわよ!」
いや、それは自覚しているところだけど。
それでもA組のみんなは温かく迎えてくれた。だから忘れていたのかもしれない。本当は私は部外者であるべき人間であるということを。
私を口撃する小日向先輩は私の机に手を乗せて叫んでいた。その腕を……我慢できないとばかりに吹雪さんが掴んだ。
「おい、さっきから黙って聞いてりゃふざけたこと抜かすなよ」
「な、なんですのこの野蛮人は!」
「先輩だかなんだか知らないけど、めっちゃ腹が立つ。殴る!」
「はいはいちょっと待ちなさいな」
吹雪さんの振り抜かれた拳を、有栖さんに命令された柚子さんが受け止めた。完璧すぎる防御に声も出ない。
「よくやったわね柚子。小日向先輩、わたくし御陵院有栖と申しますわ。クラスメイトの粗相、お許しください。吹雪さんは一度下がりなさい。熱くなりすぎですわよ」
吹雪さんはギラついた目を隠すことないまま一歩下がった。有栖さんの強キャラ感に、シンプルに押されたようだった。
「小日向先輩、休み時間はもうすぐ終わりますわ。詳しくは放課後、またお伺いしますので今はお帰り願えますか?」
「……ふんっ! 野蛮人や庶民のせいで遅刻なんてできませんわね!」
来た時と同様に、小日向先輩は勢いよくドアを開けて出ていった。
有栖さんの方に視線をやると、少しだけ微笑んでくれた。本当に頼りになる人だと思う。いったいこれまでにどんな困難を乗り越えてきたのだろう。
さて吹雪さんはというと、怒りの表情のまま拳がぷるぷると震えていた。
「……吹雪さんありがとう。暴力は良くないけど、少し嬉しかった」
「……別に。僕が気に食わなかったからやっただけさ」
少しだけ表情が和らいだ気がする。
そのタイミングで予鈴が鳴ったため、全員席へ引き上げた。
ボールペンで背中を突かれ、振り向くとエレナが「大丈夫ですか?」と心配してくれたので、「大丈夫だよ」と返した。
そのエレナも、実は怖い顔をしていることに気が付きつつ一旦この問題は置いておくことにした。
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