019 エレナの勉強法
服については少しだけ不満そうだったエレナだけど、私が屋敷に来たことについては喜んでくれた。それこそこっちが恥ずかしくなるくらいに。
「さぁさぁ結衣さんお座りください! 今メイドに紅茶を淹れさせますね」
「そ、そりゃどうも」
めっちゃ高そうな椅子に座り、めっちゃ高そうな机にノートを置いた。こりゃ消しカスを床に落として帰るとか、そんなことできやしないな。
「紅茶が届く前に結衣さんの進度を見てみましょうか。こちら英語の入試問題になります」
「あ、ありがとう。用意がすごくいいね」
「もちろん! この日のために準備してきましたから!」
そう言って隣に座り、肩を密着させてきたエレナ。
不意にフワッと、エレナからすごく甘い匂いがする。え? 金持ちの女の子ってこんないい匂いするの? 私って臭くないよね? 大丈夫だよね?
高校入試の問題を解いている間に紅茶が届き、2人で飲んでほっと一息ついた。
飲んだことない味の紅茶だ。たまに奮発して「正午の紅茶ミルクティー」なら飲むことがあるけど、それ以外で紅茶に触れるような人生ではないからね。
私が英語の問題を解いている間にもエレナはずっと私の答案と顔を交互に見つめている……気がする。
「はい、解けたよ」
「お疲れ様です。結衣さんの弱点はなんとなくわかりました」
「え? 採点もせず?」
「いえ、してますよ。頭の中で同時に採点していましたから」
マジかよ、隙がないな。
「基本的な単語の知識は頭に入れられているのはわかりました。努力されたんですね。えらいえらいです」
エレナは私の頭を撫でてきた。なんか恥ずかしいし、エレナの鼻息が荒くなっているから怖くもある。
でも美少女に撫でられるというシチュエーションは悪くない。もう少しだけ堪能しよう。
「…………と、褒めるのはここまでです! 少し厳しいことを言うと読解の力や単語をいかにして使うかがまだ甘いと言わざるを得ません」
「ほ、ほぉ。読解ね〜。あんまり集中力が続かないんだよねぇ」
「その気持ちはわかります。しかし長文読解中に意識が散漫になるとすべておじゃんです。結衣さんにはもう少し集中力をつけていただかないとです」
「というと?」
「私の目を見続けてください! 目を逸らさず、ずっと」
え、それ集中力関係ある? と思ったけどエレナはタイマーを10分セットして、スタートしてしまった。
これではもうエレナの目を見つめ続けるという選択肢以外を剥奪されてしまった。
渋々ジッとエレナの瞳を見つめてみる。
よく見るとエレナの蒼い瞳は、磨かれた鏡のように美しくて私の顔が反射して映る。
なんだか頬が熱くなる。照れてるというか、普通に美少女の瞳を見続けるのは恥ずかしいのだ。
「こ、この特訓意味ある?」
「あります! 集中力を高めるんです!」
エレナの方も少しだけ頬が赤い気がする。高揚する美少女というのもまたいいものだと思うが、目の前にいられるとやっぱり恥ずい。
pipipipipipipi! とようやくタイマーが私たちを解放してくれた。
なんだか吐き出した息が通常の6倍くらいの量に感じる。
「お、お疲れ様でした。……この特訓、アリですね」
労いの言葉の後はよく聞こえなかったけど、なんだかエレナは満足げだ。まぁ不満げなよりはいいか。
その後何回もこの特訓という名のバカップル行為を何度も繰り返し、集中力がついたのかはわからぬままテストに臨んだ。
……なんか普通にいい点取れた。ありがとう、エレナ。