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014 吹雪の勘違い

 1500円のメロンパンからはスーパーで売っているようなメロンパンとは別格の香りを私の鼻に与えてきた。

 一方吹雪さんはおにぎりを食べている。庶民的だと思ったけど、捨てられたパッケージに「北海道から取り寄せた贅沢サーモンといくら」と書いてあり、やはりこれも別格のものなのだと理解した。


「それで? 結衣ちゃんはどうして屋上に来たんだ? いつもはいなかっただろ?」

「あーうん。今日限定だけど、吹雪さんと同じでお嬢様空間にいるのに疲れちゃって」

「あははっ、だよな〜」


 わかる〜と言いながらなんと胡座座りをしてしまった吹雪さん。もはや白いパンツはモロ見えだ。

 なるほど、これはお嬢様たちと合わないというのも頷ける。素がこれなのであればご両親も頭を抱えていることだろう。


「なんで生まれた家が名家だからって、僕も名家として生きないといけないんだろうな。僕は僕なのに」

「て、哲学的だね……」

「逆に(うらや)んだりもしないか? 自分もあんなお嬢様の家に生まれていたらって」


 吹雪さんは核心をついてきた。

 羨んだりしたことがないかといえば嘘になる。世の中、どんな綺麗事を言ったって結局のところカネなのだ。私に惚れた「お嬢さま」とやらも、そのカネの力で私と同じ学校に行くことを可能にしている。


「羨んだりはするかな。でもそれって隣の芝は青く見えるってやつじゃないかな。きっと吹雪さんも私の家みたいに貧乏な家で生まれたら、今度はお金持ちを羨むと思う」

「それはそうだろうね。ははっ、答えの出ない問いを投げてごめんよ」


 吹雪さんは明るいが、今の言葉には少しだけ哀しみがあったように感じた。きっとこのどうしようもない悩みを、ずっと抱えていこうと思っているんだろう。

 そんな空気を察してか、吹雪さんはハイハイをしながらジリジリと距離を詰めてきた。

 そして吹雪さんは手を伸ばし始める。


「な、何か?」

「うん? いやちょっと失礼」

「ふぇやぁ!?」


 吹雪さんが伸ばした手の先にあったのは……私の胸だった。

 私は咄嗟に吹雪さんの手を払い、胸の前で手をクロスさせた。


「な、何するんですか!」

「いや〜胸小さいから本当に女の子かな〜って」

「ひ、ひどすぎる……」

「ごめんごめんって。お詫びに僕の胸を触らせてあげるよ。ほら意外とあるだろう?」


 勝手に私の手を取り、自分の胸に押し当ててきた吹雪さん。たしかに見た目より全然ある。柔らかくてずっと触れていたいような……って!


「だめだめ! 何してるんだもう!」


 私は慌てて手を引いた。

 吹雪さんはいたずらっ子のように……というか普通にいたずらっ子だな、うん。ともかくケラケラと笑っている。


「いや〜、いいね。結衣ちゃんとだったらこういう『はしたない!』って言われることもできるよ。なんだか普通の高校生になれたみたいだ」

「な、なんか納得いかないんだけど。だいたい吹雪さんは一つ勘違いしてる。私だって、お嬢様たちだってみんな一つは悩みや隠したいことなんて持ってる! だから吹雪さんがお嬢様のノリが苦手だっていうことだって他の誰かが思ってるかもしれないじゃん」

「へぇ……確かにそうかもな。僕ってお嬢様は悩みなんかないと思ってたんだけど」

「それは絶対に違う。将来に悩みがある子、趣味を隠したい子、恋愛に奥手すぎて悩む子。いろいろいる!」


 まぁほとんど天月さんや海咲さん、そして「お嬢さま」とやらから教えてもらったことではあるけども。


「……そっか。じゃあ少しだけ、お嬢様たちとも絡んでみようかな。もしかしたら僕みたいに、本当はノリに合わないけど無理していたって子もいるかもしれないしね」


 そう言って吹雪さんは立ち上がった。


「たまには屋上に来てよ。僕もたまに来るからさ」

「え? たまにって……」

「あぁ。今からいろんな子に話しかけてくるよ。ありがとな、結衣ちゃん」


 そう言って吹雪さんは小走りで行ってしまった。なんというフットワークの軽さだ。すごい。


「ってあぁ! あんまりヒント得られてないじゃん!」


 1週間経ってもちっとも進歩していない。

 なんだか私に新たな悩みが生まれるんじゃないかと、そう思える昼休みになるのでした。

明日の更新はお休みします!

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