013 吹雪の苦手なもの
土日が明け、学校が始まると私はすぐに行動に移した。
まず通学時、エレナにメイドさんがいるかどうか聞いてみることにした。
「エレナの家ってメイドさんとかいる?」
「もちろんいますよ。なんなら今運転しているのもメイドです」
現状1番の「お嬢さま」候補であるエレナの家にメイドがいると聞いて、私は心の中でニヤッと笑った。メイドいる? 作戦は順調に進む。そう思った。
しかし、そんな考えは庶民の想像の範疇でしか生きてこなかったのだと、井の中の蛙だったのだと思い知らされることになる。
「天月さんの家ってメイドさんいる?」
「はい。そうですね……15名ほど働いております」
「あら天月さんの家は15名なのですね。ちなみに本郷家には30人のメイドが……」
メイドマウントを取り始めたエレナと天月さんを放置して、海咲さんにも同様のことを尋ねた。
「メイドさん? いるいる〜。専属は3人だけど、本家にはたっくさんいるよ」
「……ねぇ海咲さん、もしかして金楼に通う生徒でメイドさんを雇っていない子っていない?」
「うん、そう思うけど……どうして?」
「いや……なんでもない」
クソがぁぁぁぁぁ!!!
金楼に来てから隠してたけど、やっぱり金持ちに対しての妬みが止まらねぇ!
何がメイドだよふざけるな! こちとら手があかぎれしようが冬だって米を研いでいるんだぞ!
お昼になりエレナと天月さんに誘われたけど、今日は金持ちたちの空間から遠ざかりたい気分だった。
だから私は自販機でパンを買って屋上に行こうと思ったけど、自販機のパン1500円!? 何使ったらこんな値段になるんだよ!
まぁ後で請求すれば金は返ってくるから良いかと思いながら1500円のメロンパンを買ってみた。めっちゃ大事に食べよう。
屋上に行くと誰かはいると思ったけど、みごとに誰もいなかった。
普通高校の屋上が開放されていたら行くだろ……と思ったけど、上品で育ちの良いお嬢様たちには通用しないらしい。
「ん? 珍しいな、屋上に人が来るなんて」
思いがけず声をかけられたため、肩がビクッと震えてしまったのがわかる。
声の主はどこかと探したら、なんと屋上へ出るための階段のために作られた正方形の出っ張りの上にいた。漫画やアニメで授業をサボるキャラクターがいるところだ。
短い白髪の先端だけ風に揺れ、ボーイッシュさも相まってカッコいい。そんな少女は私の顔を見て、少しだけ不思議そうな表情になった。
「ってあれ? どこかで見た顔だな」
そういう少女の顔も、私にとっては見覚えのある顔だった。というより……
「吹雪・ヤルクスベリさんですよね?」
「へぇ、覚えててくれたんだ。それは光栄なことで」
よっ、と言いながら降りてきたヤルクスベリさん。スウェーデン人とのハーフさんなんだっけ。
それにしてもスカートが捲れて普通にパンツ見えたんだけど。気にしない人なんだなぁ。
「僕の名前長いでしょ。吹雪でいいよ。君は……えっと……」
「慎見結衣です。出席番号6番の」
「あーそうだそうだ。庶民の子だ」
庶民の子て。映画のタイトルか何かか? ねぇ、今から貧乏だよ。やかましいわ。
「えっと……吹雪さんはどうしてここに?」
「う〜ん……僕はなんというか『うふふ、ごきげんよう〜』みたいなノリ、苦手なんだよなぁ。わかる?」
「あー、まぁわかります。庶民なんで」
「パパとマ……父さん母さんにもあぁいう態度を取れって言われてうるさくてさ。性に合わないっていうかね。だから昼休みくらいは屋上でお嬢様空間からエスケープしているわけ」
なるほどな。お嬢様といってもみんな一緒なわけじゃないのか。
そうだ、こんな吹雪さんだったら家にメイドなんていないかもしれない。候補者から削れるかも!
「吹雪さんの家ってメイドさんいる?」
「ん? もちろんいるけど、どうかしたか?」
これだから金持ちお嬢様は……。
「結衣ちゃんはお嬢様オーラ出てないし、いいかな。せっかくだから今日は僕と一緒にご飯でも食べるないか?」
「結衣ちゃん……? そ、そうだね。食べようか」
なんか距離の詰めかたが凄いな。
吹雪・ヤルクスベリさんか。この人と話すことで、何か得られるかもしれない。そう期待して、メロンパンの袋を開けた。