012 ヒントを掴め
金楼学園高校での生活が始まり、5日が経過した。
今日は学生にとっては天赦日とも言える土曜日。つまり休日だ。初週ということもあって宿題もない。
優雅に撮りためたアニメでも見ようかと思いテレビをつけたその時、ウチの電話が鳴った。
お母さんはスーパーに働きに行っているから、私しか出る人はいない。渋々電話に出てみると、声の主は聞き覚えのある人物だった。
『もしもし、慎見結衣さんですか?』
ボイスチェンジャー。間違いない、私に惚れた「お嬢さま」とやらのメイドだ。
「そうですが……」
別に敵意を出すつもりはない。
だって学費も出してもらっているし、最近では学食も私だけ顔パスで買えるという謎システムを導入してくれていた。さらに10億円を貰えるチャンスがあるとなると、もはや感謝する以外にない。
ただお嬢さまを当てる「ゲーム」となると、どうしても気持ちが燃えてしまう分ちょっとした熱意が漏れ出てしまうのは仕方のないことではないだろうか。
『学校にはもう慣れましたか? 何か困っていることがあればご相談に乗りますよ』
「なんか札束の暴力で攻略されそうなんで間に合ってます。困っていることなんてないんで」
ちょっとだけ嘘をついた。
実はあの日以来、海咲さんもよく話しかけてくれるようになったんだけどその影響でエレナと天月さんがたまに凄い表情をしている時があるのだ。怖いったらありゃしない。
『お嬢さまの正体のヒントは得られたでしょうか?』
「それは煽りのつもりですか?」
『失礼。チキンなお嬢さまはどうしても知りたいようなので』
「意地悪ですね。そもそも今通学しているかすらわからないというのに。お嬢さまとやらは後輩の可能性もある。そうでしょう?」
電話でメイドさんは「お嬢様が通われる金楼学園……」と言った。私と同時期に通うなんて一言も言っていないのだ。だから後輩である可能性だって十分にある。
『意外と頭が切れるお方なのですね。驚きました』
「だからこそ色んなことを疑って、思考が沼にハマる。そうでしょう?」
今週で深く関わったのは天月さん、海咲さん、エレナの3人が主だ。
しかしこの3人との関わりではお嬢さまの尻尾すら掴めなかった。
「……少しくらい、ヒントをいただけないですかねぇ?」
汗が滴るような気がした。謎の緊張感である。
『お嬢さまは頷いておられるので、小さなヒントなら差し上げましょう。お嬢さまは結衣さまの言動に惚れられたのです。決して容姿で惚れられたわけではないのでご認識ください』
「ぐっ……なんか納得いかないんだけど」
ヒント……なのか? それ。
でもまぁ過去どこかで接触しているのは確かのようだな。しかも街中で見かけた時に一目惚れとかではなく、最低でも私が何かアクションを起こしていた時にそれを見ていたということだ。
『それではお嬢さまの顔がゆでだこのように真っ赤に染まってしまわれたのでこの辺りで失礼いたします。よい週末を』
「あぁ、どうも……」
静かに電話を切られた。
なるほどな……容姿での一目惚れではないと。となるとやはりエレナが1番怪しくなるのか。単純接触回数が桁違いに多いし。
いや、待て! 私は大きなヒントを見落としていた!
私に惚れた「お嬢さま」とやらは家にメイドがいるらしい。つまりこれから知り合う人に「メイドいる?」って聞けばかなり絞れるんじゃないか?
ふっ……気がついてしまったようだな、私よ! このゲーム、少しは進展する気がする!
私はガッツポーズをして、昂りながらアニメを見始めた。