009 もやし争奪戦
「いただきます」
お弁当を開けると、中には卵焼き、もやし炒め、ちっさいウィンナー、ほうれん草のソテー、ご飯が入っている。私のよく食べるメニューより少しだけ華やかで、お母さんが張り切ってくれたのがわかる。
「……慎見さん、その細くて白いものはなんですか?」
「え? もやしだけど」
「も、もやし……?」
天月さんから尋ねられ、もやしをもやしと言っただけでエレナと一緒に首を傾げてしまった。
よく見ると天月さんのお弁当には蜂蜜レモンのトマトやサラダ、そしてご飯はなく、中央にパスタのようなものが鎮座している。
なんか「いい弁当」というのは直感で分かった。
天月さんはジーッともやしを不思議そうに見ていた。ただキャベツと炒めただけのもやし炒めだけど、そんなに不思議なのだろうか。
「……天月さん、よかったら食べる?」
「えっ? いいんですか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私も! もやしとやらが気になります!」
突然に割り込んできて必死なエレナ。そんなエレナをまたも睨むように、天月さんが食ってかかった。
「本郷さんももやしをいただきたいのですね。それならばお屋敷の方にお伝えしてはどうでしょう?」
「天月さんこそ、偉大なるお父さまにお願いされてみては?」
なんかバチバチに火花が飛び交っている気がする。なんだこの2人。たかがもやしごときで……。
「まぁそんなに気になるなら2人で食べなよ、ほら」
お弁当に詰められていたもやし炒めを乗せるためのアルミ箔を机において、2人に差し出した。おかずは減るが、まぁもやし炒めだけならなんとかなるだろう。
「……慎見さんから貰いたかったのに……ゴニョゴニョ」
「……結衣さんからいただきたかったのに……ゴニョゴニョ」
なんかゴニョゴニョ言ってるけど、丸く収まったのなら良しとしよう。
今日は少し金持ちと貧乏人の格差がお弁当から見えてしまったが、明日からは学食がオープンする。
どうせ「お嬢さま」とやらの家が払ってくれるんだから、美味しいものを食べないとだな。