008 2人きり争奪戦
入学式の翌日。
今日から金楼学園の授業が始まるけど、学食はまだ営業していないということでお母さんがお弁当を作ってくれた。
「ありがとうお母さん。行ってきます」
「うん。いってらっしゃい。そうだ、帰りにお婆ちゃんの家に寄って様子を見てもらってもいい?」
「いいよ。じゃあ行ってくるね」
家から出ると、少し爽やかな風が吹いた気がした。
今日も少し歩いたところで、狙っているのかと思うほどのタイミングで黒い高級外車が私の側で止まった。
「結衣さん、どうぞ車内へ」
「あ、ありがとう」
車で行けるのは楽だし快適だけど、かなり目立つから恥ずかしい。金楼近くに行けば外車ばっかりになるから目立たなくなるけど……。
「本日から授業ですね。結衣さんはお勉強は得意でしたか?」
「うーん……一応少しは勉強していたから大の苦手ではないかな。エレナは確か学年3位以内にはいたよね」
「覚えていてくださったんですね!」
中学の時のテスト順位を覚えていただけですごく嬉しそうだ。セレブのツボはわからんなと思いながら車に揺られる。
2日目か……「お嬢さま」とやらは私に接触してきているのだろうか。それとも相当なチキンで、ずっと指を咥えて見ているのだろうか。
頭を悩ませながら教室へとたどり着き、昨日お話をした天月さんと目があって少しだけ微笑む。
まだクラス内にグループはできていない。強いて言うなら有栖さんと柚子さんの2人がずっと一緒にいるくらいだ。
「授業を始めます。私は数学担当の……」
初回の授業は簡単で、どれもついていくことができた。
そして時刻は12:20。お昼ご飯の時間だ。
今日は上級生はお休みのため、学食は営業していないのでお弁当だ。みんなどんなお弁当を持ってきているのだろうと思ったけど、意外と普通のお弁当のように見える。
「いただき……」
「結衣さん!」「慎見さん!」
「「一緒にお昼はいかがですか?」」
……食べようとしたところで、エレナと天月さんに同時に誘われてしまった。
じゃあ3人で食べればいいかと思ったけど、なぜかエレナと天月さんは睨み合っている……ように見える。表面上は穏やかだけど。
「あらあら天月さん、ごきげんよう。結衣さんと仲良くなられたいのですか?」
「いいえ本郷さん。慎見さんとは昨日少しお話しする機会があったんです。そこで仲良くなりましたよね? 慎見さん」
「えっ!? は、はい」
はい以外に何も言えなかった。まぁ別に仲良くなる前兆のようなことをしたのは事実だし、秘密を握っているから近くにいたいのはわかる。
ただなぜエレナも天月さんも、どちらかを退けようとしているのか。それがよくわからない。
「そうなんですね。ところで結衣さん、私と結衣さんはいつからの付き合いですか?」
「え? ちゅ、中学から……」
「その通りです」
「付き合いの長さは関係ありません。大事なのは腹を割って話せる仲であるかどうかではありませんか?」
「ぐぬぬ……」
「むぐぐ……」
なんだこれ。
なんだかよくわからん構造になってしまったが、この場を諌めたのは三国さんとご飯を食べている右斜め後ろの桃園さんだった。
「ねぇねぇ、3人で食べればいいんじゃないかな〜?」
まったくのど正論を投げられた2人は少しだけまた睨み合いながらも、大人しく席に座って3人で食べる準備を進めた。
なんか……よくわかんねぇけど大変だな、お嬢様って。