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召喚術師、始めました。~最高の使い魔を召喚するつもりが事故で記憶喪失の少女を召喚した話〜

作者: 大和(大)

衝動的に思いついた内容を書き起こしました。

R-15表記は念のためつけておいただけだったりします。

楽しんでいただけたら幸いです。



 ここは、異世界から使い魔を召喚し、使役する召喚術師が存在する世界。

 その昔、魔法術から派生したそれは今や専門の養成学校すらできるほど一般に普及していた。

 召喚術師を養成する学校への入学を目指すリョウヤ・オボロは入学条件である使い魔の召喚を自室で行おうとしていた。



 …………よし、カンペキだ。

 およそできうる限りの最高の召喚術式が完成した。

 何十、何百回と見直した。必要な術式の欠損はない。

 時刻は5時ちょうど。逢魔(おうま)が時だ。

 今召喚の儀を行えば最高位の使い魔を召喚することができる……はずだ。


 魔法の才に恵まれた俺だが、そんなものに興味はない。

 俺は召喚術師になりたいんだ……!

 あの……人魔一体、互いを信頼して任務にあたる理想の召喚術師に!


 (はや)る気持ちを必死に抑え、()むことなく詠唱を進める。


「…………我が呼び声に応え」


 ……その時だった。

 大陸全土に地鳴りが起こったのは。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ……で、そうして召喚しちまったのが


「おお、リョウヤ! あれはなに!?」


 この、能力不明、戦闘技能皆無の世間知らずの少女……カンナだった。


「あれは出店だよ」

「そんなことはわかってるわ! あそこで何を売ってるのかを聞いてんの!」

「どれどれ……髪飾りみたいだな」

「リョウヤ、私あれが欲しい! あの真ん中にあるやつ」

「真ん中だぁ……?」


 一番高いやつのことでも言ってるんじゃないだろうな?

 カンナの指さした方向を凝視する。

 ……なんだ。そこら辺の子供でも買えるような手頃な価格の物じゃないか。


「そのくらいの値段なら買ってやるよ」

「ほんと!? あんた案外太っ腹なところもあるのね」


 そんなにケチな性格してると思われてたのか俺は。

 水色のひし形状のアクセサリーの付いた髪飾りを購入し、カンナに手渡す。


「ね、似合ってる?」


 俺から髪飾りを受け取ったカンナは嬉しそうにそれをすぐに身に付けて見せてきた。


「あ、ああ……いいと思う」

「なによー、歯切れ悪い答えねー」


 この態度のデカい、我が儘な彼女に不覚にもドキッとしてしまったというのは黙っておこう。


「見えたぞ」

「へぇ……これが」


 新入生をメインターゲットにした出店エリアを抜けると、水路と橋を挟んで巨大な門が開いているのが見えた。

 アレイスター学園……世界でも有数の召喚術師養成学校だ。


「今日の実技試験を乗り越えられなきゃここには入れない。……準備はいいか?」

「……え、ええ……わかってるわ」


 雰囲気に圧倒されたのか、カンナからは動揺が感じられた。

 無理もない。召喚されてから今日まで、俺は必死になって彼女の能力がなんなのか解明しようとしたが、ついにわからなかった。

 仕方がないからぶっつけ本番で発現するのに賭けようというのが二人で話し合った結果だった。


「ま、実技試験といっても色々あるからなー……」

「ねえ、待って。そろそろ受付終了時間じゃない?」

「は? ……ほんとだ。走るぞ!」


 懐中時計を取り出して確認すると、確かに受付終了時間の5分前だった。

 出店エリアで時間を潰しすぎたか!?

 とにかく急がないと!

 試験を受ける前に入学の可能性が断たれるなんてごめんだぞ!?


「痛っ!」

「何やってんだよ! ったく、しょうがないやつだなぁ」


 後ろで転んだカンナを抱き上げて全速力で門をくぐる。


「…………ごめん」


 受付窓口に必死で向かっている俺にその言葉は届かなかった。


「リョウヤ・オボロさんですね。Ⅴ番の立て札を持つ試験監督のところにどうぞ」

「ありがとうございます!」


 流れるように受付を済ませ、Ⅴ番の試験官のところへと移動する。


『時間になりました。試験監督は受験者を連れて各試験場へ移動してください』


 俺達がⅤ番の集団へと合流した丁度その時、移動開始のアナウンスが流れた。


「間に合った……! ほんと、ギリギリだった」


 何とか首の皮一枚繋がった……。


「それでは、試験会場へと移動しましょうか」


 時間ギリギリにやってきた俺達のことを一瞥してから、試験監督と思われる男性が建物の壁に大きな長方形を書き始める。

 書き終わった瞬間、長方形内の情景が変化する。


「さ、前の方から順に入って行ってください。この先が試験会場です」


 試験監督に言われるがまま、前の人達から順に長方形へと入っていく。

 最後尾の俺達が入ろうとした時、隣の集団から悲鳴が上がった。

 非常事態かと思い振り向くと、受験者と思われる人々が次々と宙を舞っていた。


「なにあれ……?」

「あのように、試験監督によって移動方法も様々なのです」


 呆気(あっけ)にとられている俺達を見て、試験監督が一言告げる。


「Ⅳ番じゃなくてよかったな……」

「そうね……」


 背後で絶叫を聞きながら、俺達は長方形の中に入っていった。




「では、これより試験を開始します。ご存知かと思いますが、試験は筆記、実技、面接の三段階に分かれています。筆記の試験は術者の素養を、実技では使い魔の素質を、面接では使い魔との信頼関係を調査します」


 この学園の合格率はおよそ2割……5人に4人が落とされる。

 正直言って、実技試験の成績は酷いことになるだろうが……それでもこの学園ならばなんとかなるはずだ。

 アレイスター学園は試験の成績だけで合否を判断しない。

 俺かカンナのどちらか、もしくは両方が光るものを見せられたら特例での合格もあり得る。


「まず、筆記試験ですが術者の方々はこちらの部屋に、使い魔の方々はあちらの部屋へ移動してください」


 術者が試験を受けている間、使い魔は別室で待機するというのが筆記試験の形式だ。


「あー、その前に質問いいか?」

「はい。なんでしょう」


 皆が一斉に動き始めた矢先、召喚術師の一人が手を挙げた。

 全員の歩みが止まり、注目が一点に集まる。


「ここは召喚術師を育成する学校……だよな?」

「そうですが、それが何か?」

「じゃあ、あんたの使い魔はどこだ?」

「……私に現在使い魔はおりません。私は王立魔法術学園から派遣された身なので」


 にわかに集団がざわめきだす。

 「おい、王立魔法術学園って……」「魔法術の才のある一部のさらに一部の選ばれた者しか入れない超名門校じゃねえか」「そんなとこから来た人がなんで試験監督に……?」

 驚きと疑念を抱いた声が全方向から聞こえてくる。

 魔(法)術師の中のエリート中のエリート。

 分野こそ違えど、その実績に畏敬(いけい)の念を抱かない人間はいない。

 ……だが、俺には関係ない。


「移動するぞ、カンナ」

「え、ええ……あ、ちゃんと満点取ってきなさいよ!」

「……当たり前だ」


 カンナの叱咤激励に不敵な笑みで応えて、筆記試験のある部屋へと歩みを進める。


「……質問は以上ですか? 他にないなら移動を開始してください」


 俺がひとりでに動き始めたのを見てか、他の受験者も移動を再開した。




 筆記試験はこれ以上ないくらいに順調に進んだ。

 途中何度か引っかけ問題に出くわしたが、それも全て合っているだろう。

 それよりも、別室でカンナが他の使い魔達と上手くやれているかが不安だった。


「カンナ! 悪い、待たせちまったか?」


 筆記試験を無事に終えた俺は、使い魔との集合場所であるホールのような所へ一目散にやってきた。


「……別に、待ってないし。あんたが一番来るの早いじゃない」

「まあな。……他の使い魔と上手く過ごせたか?」


 見たところホールの(すみ)にポツンといたっぽいけど……。

 き、きっと待機所の方では上手くやれてたに違いない!


「当たり前じゃない!」


 そんな俺の杞憂(きゆう)を吹き飛ばすかのように、彼女は自信満々に答えた。


「他の連中に変に(から)まれないように、ずっと机に突っ伏してたわ!」

「…………そうか」


 使い魔同士の喧嘩に巻き込まれたりしていないのは良かったが……妙に悲しい気持ちになった。

 ……とはいえ、今は感傷に浸っている場合ではない。

 俺が急いでここに来た理由はカンナの身を案じていたこと以外にもう一つあった。


「カンナ。お前、実技試験どの部門で出る?」


 といっても、ほぼ決まっているようなものだが……。


「……あのねえ。わざわざ私にそれを聞く?」


 あきれた様子でため息を吐いてから宣言する。


「そんなの非戦闘部門に決まってるでしょ!」

「ま、まあそうなんだが……」


 実技試験の部門は大きく分けて2つ、戦闘部門と非戦闘部門というわかりやすい区切りがある。

 戦闘部門はその名の通り専用のスタジアムで使い魔同士が直接戦うというものだ。

 召喚術師もしくは使い魔自身が戦闘続行不可だと判断したタイミングで戦闘は終了する。

 逆にそれ以外の手段で戦いを止めることは許されていない。

 例外があるとしたらそれは試験監督が判断した場合くらいだ。


 対して、非戦闘部門は数名いる試験官に自身の能力について実演でアピールするというものだ。

 そこで起こった事実は報告書にまとめられ、試験監督がそれを一通り目を通し、最終評価を下す形式となっている。


「カンナ。お前……自分の能力がなんなのか少しは思い出せたか?」

「いえ、全然」

「だよなぁ」


 煢然(けいぜん)たる事実に思わず苦笑してしまう。


「……な、なによ。私だってやれることは全部やってきたんだから!」

「わ、わかってるっつーの!」


 意外と能力がないことを気にしてることも、今日まで彼女なりに努力してきたのも知っている。

 だからこそ、こんな状況になってしまった責任の一端は自分にもあるようにも思えた。


 ――もう少しやりようがあったのではないか?

 ――彼女が能力を思い出せないのは自分が未熟であるからではないのか?


「はぁ……情けねえ」

「……は? ちょっとそれどういう――――」

「受験番号Ⅴ-60番、リョウヤ・オボロさんはいますか?」


 と、俺の名前を試験監督が呼んでいるのが聞こえた。


「はーい。じゃ、くれぐれも入る部門の会場を間違えるんじゃないぞ」

「ちょっと!?」


 短めの別れを告げてから、試験監督の声のした方向へと駆けていく。


「なんでしょうか?」

「ああ、実は受験票に必要事項を記入しきれていなかったみたいでね。時間ギリギリだったから受付の方も見逃してしまったんだろう」

「そうでしたか」


 なんだ。そんなことか。

 てっきり、さっきの試験で俺が何かやらかしてたかと思ったぜ。


「実技試験の準備が整いましたー!」

「では、これより実技試験を始めます。術者と使い魔の方々は希望される部門の方へと移動してください」


 書類とペンを渡され、書き忘れていた箇所(かしょ)を埋めている間に二次(実技)試験が始まってしまった。


「こんなもんですかね?」


 急いで、だが決して慌てることなく書き上げて試験監督に見せる。


「……一つ思ったのですが、君はあのオボロさんの親族なんですか?」


 書類を確認するついでにそんなことを尋ねられた。

 俺の祖父は魔術師として有名であるため、そのことを聞いているのだろう。


「そうですね。爺ちゃんは魔術師です。今はその腕を買われて宮中にいるみたいですけど」

「やはりそうですか……! 君のお爺さんには大変よくお世話になりました。お孫さんの話もよく聞いておりまして、面接の前ではありますが、ぜひ挨拶をしておきたいと思い至った所存で……」

「よしてくださいよそんな……」


 あんまりにもかしこまった口調で話されるもんだから、こちらもついつい腰を低くして応じてしまう。

 どうやら試験監督は爺ちゃんの教え子のようだ。

 ……これは面接試験での評価が少し上がりそうだ。


「じゃあ俺はこれで……」

「面接試験で会えるのを楽しみにしてますよ」


 合格への希望が見えた俺は軽い足取りで非戦闘部門試験室へと向かった。




 ……までは良かったのだが。


「いない、な」


 試験室にカンナの姿はなかった。

 ホールに人影がなかったからここに来たのだが……ここにいないのならどこにいるのだろう?

 トイレか忘れ物を取りに行っているのかと言った考えを巡らせて5分ほど待ってみたが、一向に来る気配がない。


「もしかして……」


 頭の中でそれだけはないと否定しながらもそれを確認せざるを得ない。

 嘘だ。ありえない。あるはずがない。

 何度も何度も呪文のように唱えながら歩みは速くなっていく。

 焦る気持ちを押さえて戦闘部門試験室の扉を開ける。


「……うそだ、ろ…………」


 そこでは今まさに一人の使い魔とカンナの戦いが始まろうとしていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 それは、二次試験開始直後での出来事だった。


「はぁー……ったくリョウヤのやつ……私のこと役立たずだって思ってるならそう言えばいいのに。……私に隠れて、他の使い魔を召喚しようとしてることぐらい知ってるんだからね」


 カンナは小声で愚痴を言いつつ、大人しくリョウヤの帰りを待っていた。

 すでに実技試験は開始され、続々と受験者達が移動を始めている。

 しかし、カンナは動かない。

 どうせ己の能力はわからないのだ。

 一人で臨んで失敗するくらいなら二人で知恵を出し合って成功した方がいいに決まっている。


「キャッ!?」

「いてっ!」


 ホールの真ん中で佇んでいたカンナは歩いてきた誰かとぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい」

「……ったく、こんなホールのど真ん中で突っ立ってんじゃねえよ」


 ぶつかってきた男性のその一言にイラッとしたが、ぐっとこらえる。

 この程度で余裕を失っては主の品格も問われるというものだ。


「……お前、使い魔か? 主はどうした」

「私の主なら試験監督のところに行ってるわよ」

「おいおい。カンニングでもしたのか、そいつは」

「……あいつはそんなことするようなやつじゃないわ」


 男は彼女がきっぱりと言い切ったのを見て少し気圧される。

 召喚されて日が浅いのにも関わらず、ここまで主のことを信頼している使い魔は珍しい。

 ……それだけに、何か挑発の一言でも言っておかなければ気が済まなかった。


「ふん。じゃあなんだ、使えない使い魔に愛想つかしたのかもな」

「……っ!」


 その一言は、カンナを突き動かすのに十分すぎた。


「上等よ! あんた達、私と勝負しなさい!」

「ハッ! 戦闘部門になるが、いいんだな?」

「……構わないわ」


 すでに決心はついていた。

 頭の片隅でずっと考えていたことだ。

 命の危機を感じれば、何か発現するのではないかと。

 それを実証するのが、たまたま今日になっただけのこと。




「さあ、かかって来なさい!」

「遠慮はいらん。最初から全力でぶっ放せ」

「了解しましたご主人様」


 戦いの火蓋は切って落とされた。

 スタジアムにはカンナとあの男が使役する使い魔のみ。

 主の命を忠実に、使い魔の女は詠唱を行い、直径3mほどの巨大な火球を生み出す。

 どうやら魔法術を用いて戦う使い魔らしい。


「…………嘘でしょ」


 その光景を見て会場内はにわかにどよめきだした。

 この時期に、これほどまでに完璧な魔術を行使できる使い魔はそうそういない。

 だが……カンナの驚きはそこではなかった。


「何も……思い浮かばない」


 この、危機的状況下に置かれてもなお、自分には何の能力があるのかが思い出せないのだ。

 不思議なことに、火球が直撃する直前に発現する感覚だけはなかった。

 認めざるを得ない。己が正真正銘の無能であることを。

 迫りくる火球。脳裏に召喚されてから今日までの記憶がフラッシュバックする。


『他の使い魔? ないない。不完全とはいえ俺の最高傑作がお前だぞ? 俺は最後までお前を信じるよ、カンナ』


 ――嘘よ。私見たんだもん。夜な夜な召喚術式を書いて何か独り言を言っているリョウヤの姿を。


『使い魔のことを使い切りの魔法だとかいうやつもいるけどさ……ほんと、その通りだよな。……一期一会、一度失ったら同じ使い魔には二度と会えない。だからもっとみんな自分の使い魔を大切にすべきだと思うんだけどなー』


 ……違う。嘘をついてるのは私のほう。

 他の使い魔を本気で召喚する気なら事前に私に相談してるはずだわ……あいつはそういうやつよ。

 本当はわかっていた。

 誰よりも私のことを大事に思っているのは彼だと。

 誰よりも悔しい思いをしているのは彼なのだと。

 ……もう、お別れかしら?


 ――最後の会話があれなのは悔しいけど……悪くない日々だったわ。



『また、会えるわよね?』





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「素晴らしい……」


 少し遠くから発せられた試験監督の称賛の声が耳に入ってくる。

 彼女の魔法の質が高いのは誰の目から見ても明らかだ。

 ましてやそれが、魔法の専門家ならばなおさら輝いて見えるだろう。


「くそッ……!」


 迷っている時間はなかった。

 俺は一目散にカンナの方へと駆ける。

 召喚術師は無力だ。

 魔術師と違って、使い魔がいなければ何もできない。


 ――また、召喚すればいい?


 あほか!

 ここで使いカンナを見捨てるやつは、俺の理想の召喚術師(俺)じゃねえんだよ!


 スタジアム内に入る。


「カンナ!」


 彼女とその目前に迫っている火球の前に割って入る。

 そのまま火球は俺に直撃する


「え……なんで……?」


 ……ことはない。絶対に。


「無事か!? カンナ!」

「どうしてリョウヤが……?」

「お前を探してここまで来たんだよ! 無茶しやがって、バカ」

「ご、ごめんなさい……」


 おずおずと頭を下げるカンナ。

 ……よし、怪我はなさそうだな。

 あとは対戦相手にこちらの負けだと伝えてここから出よう。


「!! リョウヤ、前!」

「!? ああ!?」


 振り返ると、対戦相手の使い魔が放ったと思われる稲妻が飛んできた。

 俺はそれを赤子の手を捻るように片手で打ち消す。


「どうなってる!?」

「魔術をかき消したの!?」


 観戦席がどよめいているのが聞こえる。その声だけで動揺が感じ取れるほどに。


「リョウヤ!? 一体何が起こってるの!?」


 また、魔法が飛んできた。

 今度は氷雪系か。


「カンナはここにいろ。……俺は、あいつと話してくる」

「え……ちょっと!?」


 カンナに防護魔法をかけてから対戦相手の使い魔のもとへ走る。

 俺に、半端な魔法術は効かない。

 魔法に関して多少の知識・才能のある俺は理論上あらゆる魔法を無効化できるからだ。


「なにしてる!? 次だ次! 次の魔法を放て!」


 主の声に応じて使い魔がどんどん魔法を放ってくる。

 風迅系、水流系、炎熱と風迅の複合……際限なく俺目掛けて魔法が放たれる。

 その全てを無効化して使い魔の方へ突き進む。残り10m。


 ――まだ、気づかないか……。


 頭に血が上っているのかもしれない。

 何しろ召喚術師の戦いに俺みたいな半端な野郎が飛び込んできたわけだからな。


(ここはブラフをかけるか)


 チラッと彼の方を見る……対戦相手の使い魔の主を。


「? ……まさか」


 その強張った表情を見て、俺は満足げに彼の使い魔と対峙する。

 魔法を打ち消せる。……それを使い魔に放ったら?

 『……使い魔もこの世から消える?』

 そう思うと不安で不安で仕方がないだろう?


「さあ……来いよ」


 繰り出された魔法を相殺しながら使い魔の方へと近づいていく。


 ――来い。


 使い魔の彼女は少しずつ後ずさりしていく。


 ――――来い。


 スタジアムの壁に背中が当たる。

 彼女と俺の距離はおよそ3m。


 ――――――来い。……来い!


 接触するまで幾ばくも無い。


「やめろおおおおぉぉぉぉ!!!!」


 彼女の身体に俺の拳が届く寸前、彼女の主が俺達の間に割って入った。

 ……そうだ。それでいい。

 俺は彼に対して、拳を構え……


「俺が言えることじゃないけど、もっと使い魔を大事にしろよな……」


 額を軽く小突く。


「試合は俺達の負けでいいよ。……召喚術師としては、お前の方が上だろうし」


 カンナも無事だしな。


「…………は?」


 あっけにとられている彼に背中を向けてカンナの方へ走る。


「さ、非戦闘部門の試験に向かおう。今ならまだ間に合うはずだ」


 カンナの手を取り、さっさと会場を移動しようとしたが……彼女はその場から動こうとしない。


「? どうした?」

「リョウヤ……もう間に合わないかも」


 青ざめた顔でそう言うカンナ。

 慌てて時計で時間を確認すると……部門変更可能時間を大幅に越えていた。


「嘘……だろ……」


 その場で魂が抜けたように膝から崩れ落ちる。

 もう戦闘部門で真価を発揮するしかないってことか……?

 でもさっきの試合を見るにカンナに戦闘系の能力がある確率は極めて低い。

 ……もうだめだ。


「ご、ごめんリョウヤ……私が、勝手な行動しちゃったから……」

「いや……カンナのせいじゃないよ……」


 俺が無駄に試合を続行させていなければ……いや、そもそも今日までにカンナの能力を特定できていれば……。

 その二つの後悔が頭の中で永遠と回り続ける。


「あ……リョウヤ、ここ怪我してる」


 見ると、右肩辺りが少し焼けていた。

 さっきの対戦中に魔法に当たってしまったのだろう。


「……私が、直さなきゃ」

「え……?」


 カンナが傷口の方に手をかざすと、見る見るうちに治っていった。


「お前……これ……!?」

「え? ……あ! 今の……私がやったの!?」

「ああ! すごいぞこれは!」


 回復系の能力なら常に一定の需要があり、実技試験においても評価点が高い。

 ……問題は能力の発現が少し遅かったことだが。


「次の面接試験で挽回するぞ!」

「! うん!」


 そうだ。試験はまだ終わっていない。

 最悪の場合、この後の面接試験で彼女の能力を説明しよう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 そして数日が過ぎた。


「急ぎなさいリョウヤ! 遅刻ギリギリよ!」

「急ぐも何もお前が出店に目移りしてたからだろ! カンナ!」


 時間ギリギリであることに先に気づいたカンナが俺の前を走る。

 俺はすぐに彼女の真後ろまで追いつき、


「きゃっ!?」

「この方が速い……だろ?」

「う、うん……」


 彼女を抱き上げて走る。

 眼と鼻の先にはアレイスター学園。

 今日は俺達の入学式だ……!



ご愛読ありがとうございます。

気が向いたら続きを書きます。

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