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黄泉比良坂炎華幻抄 (4/4)

『ここは黄泉平坂の入り口』


どこかしら恨めしげな表情を浮かべている頭を見ることもなく、女が長煙管をゆるりと回しながら、謳うように語りかける。


『此方緋色の地獄華、愉しい地獄往きの通行手形。此方練色の衣の如き地獄華、極楽と思わせて地獄往きの通行手形でありんすよ』


ひゅるん。


『閻魔と地蔵は表裏一体。つまりはどちらも地獄の者でありんすなぁ』


ひゅるん。


『人は皆、死ねば地獄往きでありんすよ』


ひゅるん、ひゅるん。


『人は皆、些細なことでも嘘を吐く。人は皆、小さき蟲を知らずに殺す。人は皆、芽吹く前の種ですら喰らう』


びゅんっ。


『よって人は皆、罪の深さは多々あれど、すべからく地獄往きだわなぁ』


長煙管を回すごとに徐々に女の姿は歪んでいき、語り終わるとそこには墨色の襤褸を纏ったものが座していた。


長煙管は回すごとに伸びていき、大鎌へと形を変えていた。


ぶんっと曼珠沙華に触れぬように最後に一回しすると、刃の先端を物言いたそうな表情を浮かべて転がっている頭の口へひっかけた。


そのまま高く持ち上げ、背後へ放り飛ばす。


赤と白が咲き乱れる曼珠沙華の境目の地面へ――ちょうど首級一つ分の細長い獣道――顔面から着地させられると、頭はゆっくりと転がりながら遠ざかっていった。


ごろり……ごろん……。


転がりながら、髪は抜け、肉は削られ、目玉は砂と化し…真っ白な髑髏になり、ゆっくりと坂道を転がって往った。


ごぅっ。


大鎌がまた一振りされると、蝋燭の灯りは消し飛び昏闇に包まれた。


しばらくして――。


ぽっと、小さな灯りが顕れた。


また新たな蝋燭に火がついたようだ。


火の側には、襤褸ではなく打掛を纏った女の姿があった。


女は長煙管を咥え一吸いし、ふうぅと煙を吐いた。


途切れることなく煙は吐き出され、あたりはまた真っ白になった。


女は座しながら三メートルほど手前に顕れた、立ちん坊の状態で覚醒し始めている新たな屍人を静かに見つめていた。


やや低い艶のある声で、問いかける……。


『赤か、白か、どちらを手折るや?』

がばっと跳ね起きるなり、男は這うように布団から抜け出すと、散らばった紙の山から真っ新なものを取り、投げ出された絵筆を持った。

墨、紅、胡粉…男は一心不乱に色を落としていく。

最後に男は名を入れると、満足気な笑みを浮かべてごろりと横たわった。

男の寝息のみが聞こえる部屋に、生暖かい風が入り込む。

風が去ると、描きあげたばかりの絵も消え失せた。

男は稀代の絵師××××。

されどこの絵……世には出てきていない――




ご拝読ありがとうございました

m(_ _)m

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