黄泉比良坂炎華幻抄 (3/4)
何度も聞き直し、ようやく理解はした……。
赤か白の彼岸花のどちらかを一本――手に取ると地獄か極楽のどちらかに行ける……らしい。
一応理解はしたが……急にそんなことをいわれても、そもそも本当に死んでいるのか?
ひょっとしてこれは夢かとすら疑う。
だが、しかし。
夢にしてはリアルすぎる光景だ。
「まぁ、ほんに死んだのかと疑いたくもなりもぅすなぁ。お気持ちはよぅわかりんすよ。ですが、早ぅ決めてもらわんと主さんが困りんすなぁ」
遅ぅなればなるほど、選択の余地がなくなりんすよといわれた。
迷えば迷うほど、地獄往きになる確率が高くなるという。
慌てて二色の彼岸花をじっと見つめる。
地獄へ堕ちるほどの罪などないのだから、当然往きたくもない。
薄昏いせいか、赤い花びらはまるで血のように濃く見え、白い花びらは女の白皙と同じように……いや、仄かに紅い。
まるで……そう、赤い彼岸花に色素を吸い取られたかのような血の気を失った……。
それならば――。
「……どれでも一本折ればいいんだな?」
「へぇ」
女から距離を置くように一歩踏み出すと――すんなり動けた――回り込むように白い群生に向かって歩いていき、一本手に取った。
ぱきんっ。
ひゅんっ。
手折った瞬間、一陣の風が首もとを撫でていき――。
自覚する間も無く、首から下は崩れて砂の山と化し、頭はぼとり落下して花に埋もれた。
頭はごろりごろりと花を押し潰しながら回転し、ようやく止まると何も映さなくなった双眸の先では、女が長煙管をゆるりと回していた。