黄泉比良坂炎華幻抄 (1/4)
ふっと気づいたら、あたりは一面真っ白であった。
ここは――どこだ?
ふらり、と身体が傾いた。
どうやら立ったままの状態でいたようだ。
『……、……、…………………や?』
そろりと右腕を上げて、顔にそっと触れる。
そのままゆっくりと、首、胸へと沿わせていく。
布地の感触。
服は着ているようだった。
ん? 気のせいか? 幽かに白みが薄れたようだ。
『……、…か、…………………や?』
胸に右手を当てたまま、深く息を吸い込む。
青臭い匂い――外、それも緑のあるところのようだ。
息を吐きながら、下腹部から脚へと触れていく。
体を二つに折り曲げ、膝へと徐々に下げていき、靴、そして地面に右手をついた。
湿っているような土と、柔らかい葉の感触。
『…か、…か、………を………や?』
地面から手を離し、身体を起こす。
先程よりも、視界に濃淡が生じていた。
薄らいでいる場所を凝視する。
緑……それとあれは赤か?
白以外の色の方へ踏み出そうとしたが、なぜか足は動かなかった。
『…か、…か、どちらを………や?』
動かせなかった衝撃で頭を揺さぶられたためか、ふいに自分の名前を思い出した。
それが呼び水となり、生年月日、住所、家族などの記憶が溢れてくる。
だが、肝心の――ここはどこで、なぜいるのかがまったく思い出せない。
苛立たしげに髪の毛をかきむしる。
視界の左側に存在する赤味が増してきた。
右側は緑と白のまま……いや、最初に見た靄のような白さとは違う。
『赤か、白か、どちらを………や?』
コンッ。
何かを叩いたような音が聞こえた途端、一気に視界が晴れた。