君を始末する
「…あなた、確か園田君、よね?」
園田?多田乃は一瞬首を捻ったが、今の姿が園田茂夫であることを思い出した。多田乃の様子を訝しげに脇屋は見つめる。突然自分以外の周りの動きが完全に止まり、現れたのが自分と同じく脇役に過ぎない園田=多田乃だったからである。
「脇屋さん…この状況がおかしいことに気づいているようだね」
「どういうこと?!どうして伊能さんも周りの皆も時が止まったように固まっているの!?」
「それはだね…僕が時を止めた。君のようなチートを炙り出すために、ね」
「チート…!?」
脇屋は思うところがあるのか、多田乃を睨み付けた。多田乃は構うことなく脇屋にゆっくりと近づく。
「この空間で動けるのは異世界転生者であるチートと、それを討伐する者だけだ。他の人間、いや生物や自然さえも関知することはできない。君がこの空間で動けるということは…他ならぬチートというわけだよ」
「…嘘…!どうして…?私が…?!」
「脇屋さん…君が伊能さんの命を狙ったんだね。伊能さんに生きてられては困るから、事故に見せ掛けて始末しようとしたんだろ?」
「………」
脇屋は下を向いて黙った。肩を震わせて拳を握り締めている。すると髪を掻き乱し、狂ったように笑い出した。その表情は目立つことのない脇役とは違う悪魔のような不気味な笑みである。
「ハハハハハハハハ…………!!まさかあんたがチートバスターとはね!!都市伝説の類いかと思っていたけど、実在したんだ!!」
「本性を見せたか」
「フン!冴えない前世を恨んで死んで、ようやく転生できたと思ったら、こんな地味な脇役なんかで満足できると思う?!!前世の記憶だと乙女ゲームの世界ってやつ?だったから、それを利用して本来のヒロインの伊能に成り代わろうと思ったんだけど…とんだ邪魔が入ったようだね!!」
脇屋は懐からナイフを取り出した。護身用というよりも、伊能の命を狙うためのものといった方が良さそうだ。
「さっきチートバスターといっていたが、僕のことを知っているのか?」
「うちらみたいな異世界転生者の間で噂にはなっていたよ。チートバスターにはくれぐれも気を付けろってね。でもまさか此処にいるとは思わなかったわ!」
脇屋が多田乃にナイフを向けて威嚇する。多田乃はやれやれと溜め息を付きつつ、右腕のバンドを二回叩いた。と、突然何もない宙から大振りの鎌が多田乃の前に現れた。脇屋はこの光景に驚き、目を見開いている。
「さて、脇屋さん。改めてチートバスターとして君を始末させてもらう」
多田乃が鎌の刃を脇屋へ向けた。正に死神と言わんばかりの姿に多田乃は変貌した。