最期の仕事
「使命だと…!?今更何を言う?貴様は既に異世界転生討伐代行者の任を解かれたのだ。もはや「神」に見捨てられたも同然の無価値な只の「凡人」なのだ!」
依代は顔面いっぱいに不愉快な表情を見せて多田乃に捲し立てた。多田乃は鎌を杖がわりにして依代に向かってヨロヨロと歩く。
「「神」とか「凡人」とかどうでもいい…此処まで来たのは僕の意地だ。これまでの異世界転生討伐代行者としての仕事で唯一達成できてないのが、あんたの抹殺だ。消える前にせめて仕事は完遂させてもらう」
「…くだらん…「凡人」風情が生意気な!!」
依代は感情を露にして多田乃の頭に向けてボウガンを発射した。多田乃はヨロケながら避けるが、結晶化している左腕を矢が貫通した。貫通と同時に左腕は砕け落ち、多田乃の半身に亀裂が入る。
しかし、多田乃は止まることなく残った右腕で鎌を振り回すと依代の持つボウガンの右手をバンドごと切り飛ばした。これには依代も戦慄する。
「貴様…どこからそんな力が…自棄になったのか!?」
依代は慌てて右手を黒い霧で包んで再生しようとするが、多田乃は間髪入れずに渾身の力を込めて鎌を依代へと投げつけた。鎌の刃は鈍い光を放ち、真っ直ぐ依代に飛んでいく。
「バカにするな!」
依代は僅かの差で鎌を避けた。多田乃は鎌を投げることに全ての力を使い果たしたのか、右腕も結晶化で砕けて、その場に倒れ込んだ。倒れた衝撃で両足もヒビが入り、立ち上がることができない状態になっている。
「全く…貴様らは理解し難い。どうしてこうも足掻こうするのか?何が貴様らを突き動かしている?」
依代は勝利を確信してゆっくりと倒れた多田乃の元に近寄る。多田乃の体は頭部以外が結晶化してひび割れ、今にも崩れかけていた。依代は多田乃を見下ろすと頭を踏みつけた。
「さらばだ、只の「凡人」」
依代が足の力を込めようとしたとき、四方から多田乃が投げた鎌が依代に向かって飛んできた。先程多田乃が見せた「神具」の分身と同じ攻撃である。すぐに依代は避けようとしたが、鎌たちが掠めた瞬間に依代の四肢が一斉に斬り飛んだ。
「な、何!!?いつの間にこんな芸当を仕込んだ!!」
依代が驚愕していると追撃の鎌が上空から降ってきて依代の胴体を両断し、最後に胴体と首を切断した。依代は生首状態になりながらも尚、喋り続ける。
「ぐっ……何故だ??!私には理解できない…」
そういうと依代は首から下に黒い霧を吹き出し、瞬時に元の姿に戻った。しかしその顔には余裕や多田乃を見下す様子はなく、ただただ自分が追い詰められたことに対して震えている。
「最期の最期に「神」の領域に達していたか…さすがに驚いたよ。この世界で此処までやれる者が現れるとはな…」
依代が呆然としているとアラン・スミシーがヨロヨロしながら多田乃の元に駆け寄った。アラン・スミシーは多田乃を優しく抱き抱えると依代を睨み付けた。
「これ以上「彼」に手を出すことは許さない」
「…もういい。アラン・スミシー。お前の望みをもう一つ叶えてやる」
怪訝な表情を見せるアラン・スミシーの前で依代はブラックホールを出現させ、中に入った。
「何のつもりだ?」
「私をこの世界の「神」の座から引きずり下ろすといっただろ?私自ら降りてやるよ。別の世界にて理想郷を築くとしよう」
「逃げるのか?」
「そう思いたければ思っていい。ではさらばだ」
そういうと依代の入ったブラックホールは小さくなって消えた。気づくと辺りは明るくなり始めている。どうやら止まっていた時が動き出したようだった。
「終わったのか…」
気を失っていた多田乃がアラン・スミシーの腕の中で呟いた。
次回で最終回です。




