「神」対「凡人」 その2
一か八か。多田乃は自分の周囲に張り巡らされたボウガンの矢の動きに合わせるように地面を思い切り蹴って飛び上がった。ボウガンの矢は一通り避けることができたものの、その先までは考えていない。
多田乃がふと眼下を見ると遥か下にアラン・スミシーや依代がいることに気づいた。無我夢中で飛び上がったのか、大ジャンプしてビルの屋上近くまで上がったらしい。
「えっ…?これは…今までと自分の体の動きが違う…」
多田乃は自分の身に起きたことに理解が追い付いていないのか戸惑いを見せた。が、そんな余裕もなく今度は目の前に先程見たブラックホールがいつの間にか現れた。次いでブラックホールから依代が出てくる。依代も多田乃の動きに少し驚いている様子である。
「ほう…この世界の「理」を理解していたか。常識の壁を越え始めたようだな」
「常識の壁…?」
「ではこれはどうかな?」
間髪入れず依代はボウガンを上空に向けると引き金を一回引いた。すると、無数の矢がどしゃ降りの雨の如く空から多田乃に向けて降ってきた。
「今度は上からか!?」
多田乃は闇雲に鎌を降って矢を弾き返す。が、一発の矢が多田乃の腹部を貫通した。
「ぐはっ!!!!」
多田乃はバランスを崩して落下した。多田乃は何とか体勢を立て直し、衝撃を受けつつも着地した。矢で貫かれた所は結晶化が始まっていた為、多田乃は自分の腹の傷口を抉るように鎌で強引に取り除いた。多田乃の表情が一気に強ばる。
「中々やるじゃないか。選ばれし者と呼ばれているのは伊達ではないようだ」
依代が多田乃の元に降り立ち、多田乃の様子を観察しながら煽る。多田乃はヨロヨロと立ち上がると依代を睨み付けた。
「随分痛い思いをさせてくれたな…このお礼はさせてもらうぞ!」
「その痛みは本物かな?」
「ぐうううう……」
依代は多田乃を揺さぶるように囁いた。多田乃は鎌の刃を依代に向けると思い切り投げつけた。鎌の軌道は真っ直ぐの為、依代は難なく避けると多田乃に間合いを詰めた。
「残念だな。無駄な足掻きにすぎん」
依代が多田乃を嘲笑していると鎌がブーメランの如く弧を描いて戻ってきた。しかし、それすらも依代は最小の動きで鎌をかわした。
「脇屋のときと同じ技か。この程度の芸しかできないのか?」
「何故…脇屋との戦いのことを…?」
「フッ…愚問だな」
依代が余裕を持って話していると、突如その顔をしかめた。その表情には予想外の驚きが含まれている。一瞬依代の足元にかわしたはずの多田乃の鎌が掠めた。
「…!!?貴様、何をした!!」
慌てて依代が自分の右足を見ると、膝から先が失くなっている。よく見ると遥か向こうに斬られた足が落ちていた。依代は思わず膝をつく。
「……「神具」の分身…?いつの間にそんな芸当を…!?」
依代の態度が変わった。少しばかりだが、焦りの色が見え始めた。依代は苦虫を噛み潰した表情を浮かべると、失った右足に黒い霧が包んだ。霧が晴れると足は元に戻っていた。
「なるほど…面白くなってきたな…」




