多田乃の復活
多田乃を「友」と呼ぶ黒猫と握手のようなものを交わした後、多田乃は気がかりなことを思い出した。
「あの、ところでどうやって元の世界に戻れるんだ?」
「ああ!そうだった。教えるのを忘れていたよ」
黒猫は苦笑して多田乃の右腕のバンドを前足で指した。
「コイツは通信機でもある。異世界転生者の始末が完了したら「任務完了」の旨をそのバンドに報告すればいい。後はバンドを外せば元の君の家に戻るはずだ」
「それだけ?」
多田乃は何とも拍子抜けな声を出した。半信半疑ながら多田乃はバンドに向かって「任務完了」を告げた。しかし、特にバンドの反応はない。
「何もレスポンスがないぞ」
「それでいい。後はバンドを外したまえ」
黒猫に促される形で多田乃はバンドを外そうとして…動きを止めた。黒猫が怪訝な表情で多田乃を眺める。
「どうした?」
「いや…色々ありすぎて気持ちに整理が付かないんだ。そもそもあんたのことだって何も知らない。僕のこれからだって、死んだことの有無だって…」
「…説明すれば途方もないかもしれない。もしかしたら真実を知れば君自身の精神が崩壊してしまうかもしれない」
「…とっくに崩壊しているさ。じゃなきゃ飛び降りなんてしてない」
多田乃は自虐的に笑った。黒猫はやれやれと言いたげに頭を掻く。
「残念ながら此処にいられる時間が迫ってきたようだ。私はそろそろ失礼するよ」
「また会えるか?」
「確証はできない。いつだって「神」は気まぐれだからね」
「じゃ、いつか再会したら教えてくれ」
「君が覚えていてくれたら、ね」
「覚えて…?」
「私と出会った記憶は一旦リセットされる。今度会えるときは味方か、或いは…」
黒猫はそう言いかけて、突然多田乃のバンドを咥えた。そして強引に多田乃の右腕からバンドを外した。多田乃の視界が急激に白くなり、周りの光景が霞んでいく。
「お、おい!!待て、話はまだ…!」
多田乃は驚いて黒猫に向かって叫んだ。慌てて黒猫を捕まえようしたが、黒猫の姿は蜃気楼の如くすり抜けてしまう。そしてその内に消えてしまった。それでも多田乃は必死に黒猫に向かって叫び続けた。
…………………
気がつくと多田乃は市庁舎から遥か離れた大通りの路上に倒れていた。確か市長室で爆発に巻き込まれて…此処まで吹き飛ばされたようだ。今まで夢でも見ていたのか…?
服や体はボロボロだったが、不思議なことに痛みはない。ヨロケながらも多田乃はゆっくりと立ち上がった。市庁舎の方向を見ると爆発で炎上し、大変な騒ぎになっている。
多田乃はハッとして自分の右腕を見た。右腕には「神具」である黒のバンドが巻かれていた。
「選ばれし者…か」
多田乃がぼんやりと呟いたとき、市庁舎近くの上空にどす黒い渦が現れた。まるで全てを飲み込むブラックホールのようである。その中から人影のようなものが出てくるのに多田乃は気づいた。
「!?あれは………まさか…!!!!」
多田乃はブラックホールの方向へ駆け出した。




