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「神」に選ばれた男

多田乃の体は未だに震え、興奮が収まりきらない。だが武装集団を私刑したことへの後悔や溢れる自身の謎の力への恐怖に震えているのではない。多田乃がこれまでの人生で経験したことのない高揚感というやつだろうか。


体の内に漲る何かを吐き出したい、多田乃はそんな感情を必死に押さえ込もうしていた。もしこのまま衝動に駆られて無意味に暴れ回ったのならそれこそ先程の武装集団と同じ穴のムジナである。


僕は奴等とは違う…でもこの力は何にも代えがたい、正にこの世界のパワーバランスさえも変えられる、そんな気さえする。多田乃はククク、と笑いが込み上げてきた。


何ともおかしなものである。ほんの少し前まで死のうとして職場の屋上から飛び降りたはずなのに何の因果かとんでもない力を得たのだ。もしかしたら自分も奴等と同じ異世界転生者(チート)というやつなのか?


多田乃が少し理性を取り戻しかけたとき、目の前に黒猫が現れたのに気づいた。見覚えがある…。確か飛び降りて間もなく出会ったあの黒猫だ…



「さすがだね、多田乃君。私の見込んだ通りだ」



黒猫は多田乃に向かって馴れ馴れしい口調で話し掛けた。多田乃は驚くことなく、黒猫を見て笑った。



「どこのどいつかは分からないが、礼を言わせてもらうよ。あんたが僕を助けてくれたんだろ?」


「まあ、ね。ラストチャンスと思って試練を与えてみたんだけど、まさかここまで神具と適合するとは思わなかったよ」


「神具とはこのバンドのことか?」


「そう。我々「神」より与えられし討伐代行者の証」


「討伐代行者?」


異世界転生討伐代行者(チートバスター)。君は見事「神」の試練を乗り越えてその資格を得られたんだ」



多田乃は自分の右腕に巻かれた黒のバンドを見た。どうにも腑に落ちない部分は多いが、力を見せられた以上はひとまず信じてみるか。多田乃は胸の中で呟いた。



「で、何故僕を選んだ?」


「君の前世って奴に興味があってね。この多田乃盆迅(ただのぼんじん)のまま死なせるのは惜しいと思ったんだ」


「僕の、前世…?」


「思い出せないのも無理はない。遠い遠い昔のことだからね。ともかく最近は異世界転生者(チート)共の質がすこぶる悪化していてね。我々の世界におけるパワーバランスを崩して回る連中が増えているんだ」


「そもそも「神」は何をしている?「神」の力でどうにかならないのか?」


「残念ながら魂でない限り「神」が直接干渉することはできない。それができるなら我々も苦労しないよ」



黒猫は苦笑しながら、多田乃の元に近づき右腕のバンドに鼻を付けた。すると多田乃のバンドが突然外れた。多田乃は驚いて自分の右手首と落ちたバンドを見る。



「どうして…?どうやっても外れなかったのに…」


「試練に合格したからね。もうコイツは君のものだ」



黒猫はバンドを咥えると多田乃の手のひらに置いた。多田乃は手のひらのバンドを握り締める。



「さてと、飛び降りた君を助けたときにいったが、出番が来たんだ。これから忙しくなるぞ」


「忙しくなるって…?」


異世界転生討伐代行者(チートバスター)としての仕事が来たのさ。君は市役所職員兼「神」の使いとなった」


「…そんな話信じろというのか…?」


「嫌でも信じるさ。君は自分の存在を誰かに認めてもらいたい、承認欲求に飢えていることは知っているからね。誰かに必要とされることこそが今の君の存在意義なのだから」


「…」



多田乃は黙って黒猫を見据えた。バンドを再び右腕に巻くと黒猫に右手を差し出した。多田乃の決断を確認した黒猫はニッコリと微笑んだ。



「ようこそ、我が友よ」

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