依代の罠
「…何故俺の名を知っている?」
四天王寺はアラン・スミシーを睨み付けて刀を構え直した。アラン・スミシーは四天王寺の態度に首を捻ったが、直ぐに何かに気づいて背中の羽根を出すと自身の体を覆って黒猫の姿に戻った。
「これならどうだい?」
「何だ、あんたか。「神」の使いさん」
「気づかないのも無理ないね。君に見せるのは初めての姿だから」
四天王寺もアラン・スミシーの姿が変わったのを見ると警戒を解いて刀を締まった。四天王寺はアラン・スミシーに視線を合わせるように屈むと傀儡だった脇谷の体に目をやった。そして先程まで多田乃と一緒にいた市庁舎の方を振り返る。市庁舎は先の爆発で炎上しており、消防車などの緊急車輌が多数集結して消火活動に当たっている。
「正直間一髪といったところだ。あと少し遅かったら俺も吹っ飛んでいた」
「多田乃君は無事なのか?」
「すまんが、わからん。俺の方が先に庁舎を飛び出して此処に来たから、多田乃が無事に脱出できたかまでは確認していない」
「そうか…」
四天王寺のつれない返事にアラン・スミシーは俯く。やはり多田乃のことが気になっているようだ。
「爆発はイレギュラーだが、何とか目標は仕留めたみたいだな」
「いや、こいつは只の傀儡だ。依代の陽動に使われたにすぎない」
「何だと?じゃあ本物は何処にいるんだ?」
四天王寺がアラン・スミシーに詰め寄る。アラン・スミシーは四天王寺の目を見据えて呟いた。
「四天王寺君。君は市庁舎で市長が狙撃されたのを知っているね」
「ああ、その狙撃者がソイツなんだろ」
「その通り。しかし、これは予め仕掛けられた罠だった。我々、「神」に仕えし者を誘き寄せて効率良く殲滅するためのね」
「罠…」
「妙だと思った。いつもの市長らしくないなと。そして簡単に背後を取られたことに引っ掛かったんだ」
「待て…何をいってる?」
アラン・スミシーの考察を聞く四天王寺の声が徐々に荒くなってきた。四天王寺の態度を余所にアラン・スミシーは言葉を続けた。
「結論からいおう。我々が庁舎で会っていた市長こそが目標である依代だった」
「何!?バカな!仲間に自分を討たせたというのか!?」
「奴は何にでも化けられると聞いた。市長に化けて我々を集めたところで狙撃者に自分を討たせる。外に注意を引いたところで先の爆発で中にいる全員を吹き飛ばす算段だった」
「なら奴も死んだんじゃ…」
「それはない。奴は別次元から来たと聞いている。あの程度で死んだとは考えないことだ。分かっているからこそ奴はそれを見越して罠を張った」
アラン・スミシーは怖れ戦く四天王寺を諭すように説明する。四天王寺は愕然として手に持った刀を床に置いた。
「これは思っている以上にヤバイ相手だぞ…「神」は無事なんだろうな?」
「それは心配ない。奴も「神」には下手に手を出さないはずだ。しかし…」
アラン・スミシーの顔色が悪くなる。
「しかし、何だ?」
「我々が全滅したら話は別だ。この傀儡がいっていたが、依代の真の目的は異世界転生者を中心とした新しい世界の「神」に君臨することらしい。異世界転生討伐代行者を奴が狙っているのはその力を我が物にする為だとしたら、「神」を越える力を手に入れることになる」
「成る程同胞を殲滅してきたのはそれが目的か。…生き残りの異世界転生討伐代行者はどれだけいる?」
「残念ながら私が把握しているのは君と多田乃君だけだ」
「チッ、手詰まりか」
四天王寺は舌打ちして屋上の床を殴り付ける。
「だが、まだ希望はある」
「希望だと?」
「多田乃君だよ。彼こそが切り札だ」
アラン・スミシーの言葉に四天王寺は俯く。先の市庁舎の爆発を思い返していた。
「…あのとき俺が出し抜こうとしなければ…」
四天王寺が後悔の念を口にしたとき、突然ビル上空にブラックホールのような禍々しい空間が現れた。アラン・スミシーと四天王寺は慌てて顔を上げてブラックホールを見据える。
「何だ…こいつは?」
「奴だ…」
「!?」
「来るぞ!四天王寺君!」
アラン・スミシーは急いで戦闘用の姿に戻り、大鎌を構えた。




