第三の男
男が多田乃に見せた右腕のバンドは多田乃も同じタイプのものだった。男がバンドを二回軽く叩くと何もない宙から巨大な日本刀が現れた。
「なるほど…やはり神具を持っているか」
「あんたと同じだ。俺も「神」に呼ばれて此処に来た」
「「神」に呼ばれた?」
「この世界にあってはならない者が現れたと聞いてね。風の噂では同業者の連中が悉くダイブ先で抹殺されてきたらしく、遂にこの世界にまで足を伸ばしてきたようだ」
「依代…」
「挙げ句たどり着いたと思ったらこの様だ」
男が市長の遺体が置かれている市長の席にチラリと目を向ける。そして向き直ると今度は多田乃に睨みを効かせた。手に持った日本刀を抜くと切っ先を多田乃へと向けた。多田乃は驚いて後退りする。
「誤解だ、僕じゃない」
「知ってるさ。でもこの事態を招いたのはあんただろ?」
「それは…」
「奴はどこだ?確か外から狙撃されたようだな」
男が慎重に窓の外を眺める。向かいのビルの屋上では黒いローブに身を包んだ二人の影が武器を持って戦っている様子が見えた。
「彼処か!」
男は日本刀を窓に向けて振った。すると窓だけでなく、壁ごとチーズをスライスするかの如く綺麗に切断された。男がジャンプして向かいのビルまで行こうとする。
「待て!」
多田乃は思わず男に声を掛けた。男が不思議そうに振り返る。多田乃はバンドを二回叩くと大振りの鎌を取り出した。
「こっちも聞きたいことが山ほどあるんだ」
「今はあんたに構っている余裕はない」
「だとしても一人でいく気か?」
「「神」に神具を没収されて焦っていた奴の助けはいらない」
男が多田乃を一瞥して嘲笑した。多田乃は男に対して苛立ちを覚え、鎌を男に向ける。
「助けてもらってなんだが、失礼な奴だな。せめて名ぐらい名乗れ」
「四天王寺…」
「えっ…?」
「四天王寺道生」
男はそう呟くとバンドを捻った。時を止めた為か周りに静寂が広がり、多田乃も体を動かせなくなった。多田乃自身は時を止められたことを自覚しているものの四天王寺の行動に干渉できず、黙って四天王寺を見送ることしかできない。これは他の異世界転生討伐代行者との繋がりがない多田乃が知らなかった情報である。
「しまった…奴も僕と同じで時を止められるんだった…」
「また会おうぜ、多田乃さん」
四天王寺の姿が市長室から消えると多田乃は体を動かせるようになった。多田乃は慌てて四天王寺の後を追って四天王寺の開けた壁の外を見る。しかし、何処にも四天王寺の姿はない。
多田乃が舌打ちして市庁舎を出ようとすると何か歯車が回る音に気づいた。多田乃が首を傾げて辺りを探ると市長の遺体の近くから聞こえていることがわかった。多田乃はある胸騒ぎを覚えて市長の机の引き出しを開けた。
「何だ…これは?」
引き出しの中に合ったのは時計らしいタイマーが巻かれた数本の火薬の筒だった。タイマーは刻々と動いており、もう少しで針が12を指そうとしている。まさか…こいつは…
多田乃は血の気が引いて急いで窓の外に向かって駆け出した。多田乃が意を決して窓の外からジャンプしたと同時に背後から爆発音と閃光と熱波が襲い掛かった。




