邂逅
◆一旦多田乃とアラン・スミシーが二手に別れた直後に遡る。
アラン・スミシーが向かいのビルの屋上に潜む狙撃者の撃退に向かったのを見送った多田乃は慎重に市長室の扉へと歩を進めた。ボウガンの矢がまた飛んでくる可能性もあるのでアラン・スミシーが狙撃者と接触したであろうタイミングを見計らう。
窓をチラチラ眺めつつ、ゆっくりと身を屈めながら扉へと近づいていく。廊下は照明が落ちて薄暗く、遥か先の突き当たりにある非常口の明かりだけが不気味に光っている。静寂の中、多田乃は意を決して市長室の扉のノブに手を掛けた。
幸いボウガンの矢が飛んでくる様子はない。それでも安心できず、慌てて部屋の中に入ると大急ぎで扉を閉めた。緊張の余り多田乃の身体中から汗が吹き出て、呼吸が荒くなった。扉から市長室の壁際に体を移動させ、背を壁につけて呼吸を整えた。思わず膝をつく。
「はあ、はあ、はあ…」
多田乃は生唾を飲み込むとゆっくり神野市長の遺体が倒れこんでいる机を見据えた。先程と同じように神野市長の背中にはボウガンの矢が突き刺さっており、遺体も事切れたようにピクリとも動く様子はない。
「やはり、市長は死んだ…ということか?」
多田乃は目の前の事実を未だ受け入れられていないが、市長に没収されたバンドを取り戻そうと何とか遺体の側まで近づいた。多田乃は立ち上がると市長の遺体をマジマジと眺めた。何処かにバンドがあるはず。多田乃は市長の手を持つ掌の中を確認した。しかし、両方の掌ともバンドらしきものは握られていなかった。
「どこだ…どこかにあるはずだ」
多田乃の顔に焦りが見えた。アラン・スミシーが狙撃者と交戦しているとはいえ、いつまで持つか分からない。まずは自分の武器を回収しなければならない。
「失礼…」
多田乃は市長の遺体の服のポケットを手当たり次第にまさぐった。しかし、何処にもバンドはなかった。多田乃の顔から血の気が引く。
「確か…バンドは握り潰されたけど、市長が撃たれる前に見たときは戻っていたはずなんだ…なのに一体何処へ…?」
「もしかしたらこれをお探しかい?」
ボンヤリとした多田乃の呟きに対し、不意に返事が飛んできた。多田乃は仰天して声の先に目を向けた。市長室の扉の前にスーツに身を包んだ男が多田乃のバンドを手に立っていた。男の見た目は20代前半、髪はオールバックに金髪、鋭い目付きをしており、全身から殺気に満ちたオーラを放っている。
「誰だ…?あんた?」
「あんたと同じだよ、多田乃さん」
男は多田乃のバンドに向けて投げつけた。多田乃は慌ててバンドを受けとる。多田乃はバンドを素早く巻くと男をじっと睨み付けた。
「何者なんだ?」
「異世界転生討伐代行者だ」
「同業者…?」
多田乃は思わず首を傾げた。しかし男は市長室の様子を見ると多田乃への睨みを更に強くした。
「あんたがやったのか?」
「えっ…?」
「この部屋の状況だよ」
「違う、僕じゃない。狙撃者が近くにいるんだ。ソイツの仕業だ」
「なるほど…噂は本当だったか」
男は溜め息を付くと右腕に巻かれたバンドを多田乃に見せた。




