僕は選ばれし者
「使命…」
多田乃は市長を前に膝を付いたまま、呆然と呟いた。まさか神野市長が『神』だったとは…。あまりにも身近にいたことに衝撃を隠しきれず、どうやって接してよいのか分からない。そんな多田乃の様子を見たアラン・スミシーが多田乃を突っついた。
「大丈夫かい?」
「あ、ああ…」
ようやく多田乃は我に返ったが、まだ思考が追い付いていない感じだ。
「まさか『神』に直接会えるだなんて…」
「私が此処にいるのは意外かね?」
「え、…ええ…」
「ハハハ、やだなぁ。私は市長でもあるんだよ。市役所に市長がいるのは当然だろう?」
「い、いえ…これとそれは違うと思うのですが…」
「まあ、君が戸惑うのも尤もだ。アランから色々聞いていると思うが、事態は思っている以上に深刻でね」
神野市長の眉間に皺が寄る。多田乃は慌てて立ち上がり、直立不動になった。
「あの男…依代始だ…最初私も異世界転生者の一人と踏んで、君以外の異世界転生討伐代行者に処理を委ねていたのだが、悉く返り討ちに遭ってね。奴の狙いは不明だが、チートバスター専門のハンターを名乗っているようなのだ」
「…確かに接触したときにそういっていました。そして奴もこれと同じものを持っていました」
多田乃は徐に自身の右腕のバンドを神野市長に見せた。神野市長は怪訝な表情で多田乃のバンドを眺める。
「こいつは、私が君ら異世界転生討伐代行者に与えた神具だ。本来は神に選ばれた者しか装備できない代物のはず。奴が持っているということは…奴は別次元の世界における選ばれし者となる」
「依代も僕と同じなのですか?」
「元は同じなのかもしれない。しかし、この世界に奴が干渉してきたのが不思議だ。アランから聞いたと思うが、此処は「死者の世界」。現世に未練を持った魂がさ迷える世界でもある」
「未練…?」
「現世に未練を持ったまま死者となると、その者の現世の記憶を元にした世界が形成される。それがこの「死者の世界」だ。よって今が君が見ている光景は現世の未練を元にした仮初の姿となる」
「え…じゃ、じゃあ他の人間には別の光景が見えているというのですか?」
「左様。死者の世界は千差万別だ。魂の数だけ世界はある」
多田乃は余りにもショッキングな事実に頭を抱えて倒れそうになった。しかし、神野市長は多田乃に構わず話を続ける。
「だからこそ依代が此処に来ているのが不思議なのだ。そもそも奴は死者ではない。何らかの意図があって此処に存在している」
「………」
「…奴が存在している以上、この世界のバランスが崩れつつある。一刻も早く奴を排除せねば取り返しのつかない事態になる」
「それが僕の「使命」…」
「私が君を選んだのはアランとの相性、チートバスターとしての実力、そして私への絶対的な忠誠心だ」
神野市長は真剣な眼差しで多田乃を見据えた。多田乃の額から汗が吹き出てくる。『神』直々に勅命を受けるとは…
「多田乃君」
横からアラン・スミシーが多田乃に話し掛けた。
「釘を刺すようで悪いが、私は盲目的な忠誠心はオススメはしないよ。確かに『神』とは知り合いだが、私とは如何せん反りが合わないからね」
「アラン、人には人の考えがある。それに今は言い争いをしている場合じゃないだろう?」
神野市長はアラン・スミシーを諌めるように諭す。一方で多田乃は自身の右腕に巻かれたバンドを見て、闘志を露にした。
「僕は、いや僕こそが選ばれし者…だ」




