会わせたい人
「そうだ、多田乃君。君に会わせなければならない人がいたんだ」
黒猫姿のアラン・スミシーが思い出したかのように呟いた。辺りはすっかりネオンに包まれている。
「会わせなければならない人だと?」
「今の君の状況は極めて悪い方向に進んでいる。あの人にまず相談してこれからのことを決めないといけない」
「待て待て、勝手に進めないでくれ。一つ一つ行動を整理させてほしい」
「例えば?」
行動を逸るアラン・スミシーに対して多田乃は頭を落ち着かせようとした。もう一度ビルの下を覗いて人々の様子を眺める。やはり先程と同じようにゾンビやドクロ、亡霊がネオンの町を闊歩する異様な光景が流れていた。
「此処からどうやって出るんだ?此処はヤクザの事務所があるビルじゃないか。またさっきみたいに絡まれるのはゴメンだ」
「それなら心配ないよ」
アラン・スミシーはニッコリ笑って多田乃の右腕のバンドを前足で指差す仕草をした。多田乃は納得したように頷くとバンドを捻った。
シーン…
辺りの音や空気、人の流れが止まり静まり返る。多田乃とアラン・スミシーは時間を止めている間にビルから脱出した。多田乃はビルを出てからバンドを捻って時間を動かす。
「で、どこにいけばいいんだ?」
「私に付いてきてくれ」
アラン・スミシーはゆっくりと歩を進める。多田乃もアラン・スミシーの後を付けて歩いていく。まるで多田乃の通勤路をなぞっていくようである。その進む先は…
「此処は…市役所じゃないか?」
アラン・スミシーと多田乃は先程まで多田乃が勤めていた市役所の入り口にたどり着いた。アラン・スミシーは多田乃に振り返り、ゆっくりと頷いた。
「此処に君に会わせる人がいる」
「待て、依代がいるんじゃないか?」
「大丈夫。退散したようだ」
アラン・スミシーと多田乃は市役所の中へと進み、エレベーターの前に着いた。そしてアラン・スミシーは多田乃の肩に飛び乗った。
「さて、このエレベーターに乗って今から私のいう階層に向かってくれ」
アラン・スミシーは多田乃に階層の指示をしてエレベーターのボタンを押させた。
「此処って、市長室があるとこじゃないか?」
「その通り。此処にあの人はいる」
多田乃はエレベーターの階層を見て呟く。エレベーターが止まり、市長室のある階層に二人はたどり着いた。市長室の階は真っ暗で不気味に静まり返っていた。
「市長は…もう帰ったようだな」
多田乃が確認するように呟くと市長室の明かりが灯ったことに気づいた。アラン・スミシーは市長室へと真っ直ぐ向かう。多田乃も慌ててアラン・スミシーの後を追い、市長室のドアの前に立った。
「此処だ…さあ、入ろう」
「入ろう…って勝手に入るのは…」
戸惑う多田乃に構わずアラン・スミシーはドアを押して開いた。




