使命
「たった一つの使命…?」
多田乃はアラン・スミシーの言葉をオウム返しした。余りにも衝撃的な真実に多田乃自身、全く思考が追い付いていない。が、何とか平静を保とうとする。しかし足の震えは止まらず、脂汗が滲み出てくる。
「あの男…依代始を仕留めることだ。彼がこの世界に来たことが全ての元凶だ。彼がこの世界にのさばり続ける以上、他の異世界とのバランスを崩し兼ねない」
「待て、待ってくれ…依代を倒す…?あの男が来たことがこの世界にとっての危機というのか?」
「如何にも。チートバスターハンターは依代以外にもこの世界には存在するが、彼は規格外だ。彼はこの世界に居てはならない存在なのだよ」
「……全く持って理解できん。何故僕なんだ?僕がやらなければならないんだ?」
「君は選ばれし者だからだ。碌でなしの神に選ばれたとはいえ、実力は本物だし何より私との相性も抜群だからね」
「…そもそもお前は何者なんだ。僕の前世といい、宇宙人とかいって…いい加減に教えるんだ!」
アラン・スミシーはふう、と息を吐くと背中から巨大な羽を生やした。そして黒猫の体を羽で覆い隠してまるで繭のような姿勢を取る。
すると羽の中が目映い光を放った。多田乃は思わず目を瞑る。光が小さくなると共にアラン・スミシーは羽を広げた。
「な、何だ??お前は一体……?」
多田乃の目の前には巨大な羽を生やした全身を黒いローブに身を包んだ女性が立っていた。ローブのフードの中を見ると金髪碧眼の端正な顔立ちの若い乙女であることが分かる。首もとには赤く爛れたような火傷の痕も見えた。背丈は多田乃よりも一回り近く大きい。ローブで分かりにくいが、かなりプロポーションも良さそうだ。そして右腕には多田乃と同じ大振りの鎌が握られていた。
多田乃はアラン・スミシーの変貌ぶりに腰を抜かしてしまった。多田乃の動揺っぷりを女性は可笑しそうに眺めている。
「これが私の本当の姿だよ、多田乃君」
「あ、あんた…雄…じゃなかったのか…?」
「私の性別はこの際問題じゃない。それよりこの姿を見てピンと来ないか?」
「ピンと…って。いきなり言われても…」
多田乃はアラン・スミシーの姿を全身食い入るように眺めた。確かに何かに見える…よくある小説や映画とか見たことがある…
「…し、死神…?」
多田乃が声を絞り出すように答えた。
「大正解。流石だね、多田乃君」
「い、いや全然嬉しくないんだが…それに死神と相性抜群って…どういうことだ…」
「さっき話した君の前世のことに深い関わりがあるんだよ。君は騎士の端くれだったといったね」
「あ、ああ。覚えてないが」
「私は君に助けられたんだよ」
そういうとアラン・スミシーは首もとのローブを開けて、赤く爛れた火傷の痕を多田乃に見せた。深く刻まれた火傷は見た目からして非常に痛々しい。この傷痕を見た多田乃は思わず呟いた。
「魔女狩り…」
多田乃はアラン・スミシーが語った前世がファンタジーのような中世の世界であることを思い出していた。と同時に何かデジャヴのような感覚を覚えていた。アラン・スミシーもゆっくりと頷く。
「前世の君は命の恩人だ。私はこういう形で転生を果たした。だから何としても君の力になりたいんだ」
アラン・スミシーは多田乃に手を差しのべた。




